2021年12月22日水曜日

19階


 

 

Ⅰ―1

 

深夜の2時頃から3時頃に

地下のB1の階のゴミ捨て場まで下りていくことがある

 

22階に住んでいる

 

ある夜

2時少し前のこと

ゴミを捨てにB1に向かおうとした

 

エレベーターは二基あるが

19階に大きいほうが止まっていたので

ボタンを押して呼び寄せた

もちろん

エレベーターは22階に来る

 

乗って

B1のボタンを押す

 

押せばボタンはオレンジ色に点灯する

 

B1のボタンがオレンジ色になり

エレベーターは下り始める

ほかには誰も乗っていないし

自分で間違って他の階のボタンを押してもいない

 

ところがなぜか

19階でエレベーターは止まった

 

ん?

と思う

 

ドアが開く直前

ボタンを見ると

19階がオレンジ色に点灯している

 

ドアが開く

誰も待っていない

誰も乗ってこない

誰もホールにはいない

 

 

 

Ⅰー2

 

その後は

B1までスムーズに下りた

エレベーターを降り

エレベーターホールからドアを開けて出て

廊下に出る

ゴミ捨て場に向かい

ゴミを捨てる

 

 

 

Ⅰ―3

 

エレベーターホールへ戻る

 

おや?

エレベーターが上ってしまっている

 

誰か上で呼んだのか?

こんな深夜に?

 

いや

自分だって

深夜にゴミを捨てに下りてきている

他のひとが同じことをしても

おかしくはない

 

エレべーターのいる階を見ると

19階になっている

 

さっき

止まった階だな

と思う

 

 

 

Ⅰ―4

 

19階からエレベーターが着く

 

ゴミを持って

誰かが乗っているだろうと予想していたが

誰も下りてこない

 

中は空っぽ

 

おかしいなあ

誰かが呼んだから

19階まで上っていったはずだろうに

 

私がゴミを捨てて

B1のエレベーターホールに戻るまでは

ものの1分もかかっていない

たぶん40秒ほどだろう

その間にエレベーターが19階まで上がるには

私が下りたと同時に上がっていったのでなければ

19階で停止しているはずがない

だから

誰かが呼んだはずなのだが

おかしいなあ

 

 

 

Ⅱ-1

 

空っぽだったエレベーターに乗り込み

もちろん

自分の住んでいる22階のボタンを押す

 

エレベーターは

どんどん上がっていく

 

22階以外で

止まるわけがない

 

オフィスビルのエレベーターとは違うので

いったんB1や1階を離れると

ふつうは

エレベーターが上昇していく時

ボタンを押してもいない階で止まることはない

たまに

低層階から上のほうの階の知人を訪ねに

上がっていくひともいるが

そういうことは本当にごく稀で

数年に一度か二度あったぐらいのこと

 

 

 

Ⅱ―2

 

ところが

19階

 

エレベーターが止まる

 

ん?

 

ボタンを見ると

19階が

オレンジ色に点灯している

 

また誰か呼んだのか?

 

ドアが開く

 

誰も待っていない

誰も乗ってこない

誰もホールにはいない

 

誰もいない

19階のエレベーターホール

 

おかしいなあ

 

ちょっと

出てみる

 

みまわす

 

誰もいない

 

むこうの廊下の角で

誰か

顔を出していないかな?

 

いない

 

本当に

まったく誰もいない

 

 

 

Ⅱ-3

 

エレベーターの中に戻る

ドアが閉まる

 

このエレベーターは

ドアが閉まる時

「ドアが閉まります」

と女性の声が告げるので

誰もいない19階のエレベーターホールと

私のいるエレベーターの中に

「ドアが閉まります」

が響く

 

ドアが閉まる

 

 

 

Ⅱ―4

 

22階まで

エレベーターは上がっていく

 

ドアが開く

 

おかしいなあ

19階

 

そう思いながら

家に着く

 

 

 

Ⅲ―1

 

家の中に入って

玄関ドアを閉める

鍵をかける

 

 

Ⅲ-2

 

台所で

捨ててきたゴミのかわりの新しいポリ袋を

ゴミ袋かけに掛けながら

あ!

と思い出した

 

 

 

Ⅳ―1

 

11月も終わり近く

夕方の5時前頃だろうか

 

外から帰ってきて

1階から22階へと

エレベーターで向かった時

なぜか

階を間違えて下りて

同じ配置の違った家のカギ穴にカギを指し

ガチャガチャまわしたが

ドアが開かないのに戸惑った

 

おかしいと思い

号室の表示を見ると

19階だった

 

エレベーターでは

もちろん

22階のボタンを押したし

他の階のボタンなど押していなかったので

エレベーターが止まる階は

22階以外あり得ない

 

それなのに

なぜか

19階で止まってしまい

エレベーター内で階数を確かめないまま

19階に下りてしまったことになる

 

ひとりで乗ってきていて

他には誰も乗りあわせていなかったので

もちろん

22階のボタンしか

押していない

 

 

 

Ⅳ-2

 

22階まで上ろうと思い

19階のエレベーターホールに戻ると

さっきはいなかったはずの

中高生らしい娘がいた

 

濃紺の制服を着ている

髪は少し長く

後ろに

ポニーテールにして垂らしている

学校指定のものらしい

濃紺のバッグを

右肩に掛けている

 

娘は

さっき私が下りた

大きいほうのエレベーターの前にいて

エレベーターが来るのを

待っている

 

エレベーターの中でさっき私がボタンを押し

オレンジ色に点灯させた22階に着いて

しばらく停止しているのが

脇の表示でわかる

エレべーターは

もうすぐ下りてくるだろう

 

 

 

Ⅳ―3

 

エレベーターを

その娘といっしょに待とうと思ったが

考え直した

 

下りてくるエレベーターに乗っても

私はいったん

1階まで下りないといけない

なので

乗らずに

19階で待ち続け

エレベーターがもう一度上って来たら

ここから乗って

22階へ行かなければならない

 

それはそれで

しかたがない動作だが

22階からエレベーターが下りてきた時に

そのエレベーターに先に乗り込んだ娘に

私のほうは乗らない

と告げるのが

なんだかヘンに受け取られるのではないか

と思い

そう受けとられないように短く説明するのも

これもまた

さらにヘンに受け取られるのではないか

と思い

面倒な気がして

階段を上がっていくことに決めた

 

エレベーターホールには

二基のエレベーターの脇の

住居側に向かう廊下のはじまりのところに階段室があり

ドアを開けて入っていけばよい

19階から22階ならば

3階分だけ上がればいいので

たいしたことではない

 

 

 

Ⅳ―4

 

階段を上がって

疲れるほどのこともなく

すぐに22階に着き

家に着いた

鍵を鍵穴に入れると

もちろん

今度はちゃんとドアが開く

 

中に入った

 

 

 

Ⅳ―5

 

荷物を置き

外出着から着替えはじめながら

 

それにしてもな

ヘンだな

ちょっとな

 

などと

考えはじめた

 

もちろん

19階で下りてしまったこともヘンだが

さっき

エレベーターホールにいた娘が

ヘンなのだ

 

 

 

Ⅳ―6

 

19階で下りた時

エレベーターホールにあの娘はいなかった

 

誰の姿もなかった

 

大きいほうのエレベーターと

周囲が見はらせる窓とのあいだには

ひとがひとり隠れられる程度の空間があって

そこに隠れることは

できることはできるのだが

エレベーターを待つひとが隠れる必要はないし

ふつうは隠れるはずもない

 

 

 

Ⅳ―7

 

間違って鍵を開けようとした家の玄関ドアで

私が鍵を鍵穴に挿してみている時に

この娘が

どこかの家から出て

廊下を歩いてきて

エレベーターホールに着いた

ということも

あり得ない

 

その階の部屋の中では

私が開けようとした部屋は

いちばんエレベーターホールに近く

廊下を通ってくる人は

鍵を開けようとしていた私の背後を

かならず通らなければならない

 

その家に着くまでも

私は廊下に誰の姿も見なかったし

鍵を差し入れている時も

背後にひとの通る気配は感じなかった

 

鍵を差し入れて

開けようとしていた時間はごくわずかで

5秒も経過しなかっただろう

私はすぐに住居表示を見て

19階であることに気づいて

鍵をすぐに抜いたので

おそらく

間違ってエレベーターを降りてから

30秒もかからぬうちに

ふたたびエレベーターホールに戻っている

たぶん

20秒さえ

かかっていないだろう

 

 

 

Ⅴ-1

 

Ⅳ―7まで書いて

しばらく

止めておいたが

昨夜

というより

今朝

320分頃

ふたたび

私は

真夜中

ゴミを捨てに

B1まで下りていった

 

22階から乗ったエレベーターは

19階で止まらなかった

 

B1で下りて

ゴミを捨ててから

エレベーターホールに戻ってきても

ドアこそ閉まっていたものの

エレベーターはB1に居続けていて

ボタンを押すと

すぐに

ドアは開いた

 

エレベーターの中で

22階のボタンを押す

オレンジ色に

22階のボタンが点灯する

 

上っていく

 

19階が近づく

 

16階あたりから

心は身がまえはじめる

 

17

 

18

 

少し息を呑んだ

 

19

 

止まらなかった

 

 

 

Ⅴ-2

 

もちろん

時間が違っていたから

過ぎないのかも

しれない

 

夜なら

2時前後

 

夕方なら

5時前頃

 

それ以外の時には

19階は

呼ばないのかも

しれない








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