Ⅰ―1
深夜の2時頃から3時頃に
地下のB1の階のゴミ捨て場まで下りていくことがある
22階に住んでいる
ある夜
2時少し前のこと
ゴミを捨てにB1に向かおうとした
エレベーターは二基あるが
19階に大きいほうが止まっていたので
ボタンを押して呼び寄せた
もちろん
エレベーターは22階に来る
乗って
B1のボタンを押す
押せばボタンはオレンジ色に点灯する
B1のボタンがオレンジ色になり
エレベーターは下り始める
ほかには誰も乗っていないし
自分で間違って他の階のボタンを押してもいない
ところがなぜか
19階でエレベーターは止まった
ん?
と思う
ドアが開く直前
ボタンを見ると
19階がオレンジ色に点灯している
ドアが開く
誰も待っていない
誰も乗ってこない
誰もホールにはいない
Ⅰー2
その後は
B1までスムーズに下りた
エレベーターを降り
エレベーターホールからドアを開けて出て
廊下に出る
ゴミ捨て場に向かい
ゴミを捨てる
Ⅰ―3
エレベーターホールへ戻る
おや?
エレベーターが上ってしまっている
誰か上で呼んだのか?
こんな深夜に?
いや
自分だって
深夜にゴミを捨てに下りてきている
他のひとが同じことをしても
おかしくはない
エレべーターのいる階を見ると
19階になっている
さっき
止まった階だな
と思う
Ⅰ―4
19階からエレベーターが着く
ゴミを持って
誰かが乗っているだろうと予想していたが
誰も下りてこない
中は空っぽ
おかしいなあ
誰かが呼んだから
19階まで上っていったはずだろうに
私がゴミを捨てて
B1のエレベーターホールに戻るまでは
ものの1分もかかっていない
たぶん40秒ほどだろう
その間にエレベーターが19階まで上がるには
私が下りたと同時に上がっていったのでなければ
19階で停止しているはずがない
だから
誰かが呼んだはずなのだが
おかしいなあ
Ⅱ-1
空っぽだったエレベーターに乗り込み
もちろん
自分の住んでいる22階のボタンを押す
エレベーターは
どんどん上がっていく
22階以外で
止まるわけがない
オフィスビルのエレベーターとは違うので
いったんB1や1階を離れると
ふつうは
エレベーターが上昇していく時
ボタンを押してもいない階で止まることはない
たまに
低層階から上のほうの階の知人を訪ねに
上がっていくひともいるが
そういうことは本当にごく稀で
数年に一度か二度あったぐらいのこと
Ⅱ―2
ところが
19階
エレベーターが止まる
ん?
ボタンを見ると
19階が
オレンジ色に点灯している
また誰か呼んだのか?
ドアが開く
誰も待っていない
誰も乗ってこない
誰もホールにはいない
誰もいない
19階のエレベーターホール
おかしいなあ
ちょっと
出てみる
みまわす
誰もいない
むこうの廊下の角で
誰か
顔を出していないかな?
いない
本当に
まったく誰もいない
Ⅱ-3
エレベーターの中に戻る
ドアが閉まる
このエレベーターは
ドアが閉まる時
「ドアが閉まります」
と女性の声が告げるので
誰もいない19階のエレベーターホールと
私のいるエレベーターの中に
「ドアが閉まります」
が響く
ドアが閉まる
Ⅱ―4
22階まで
エレベーターは上がっていく
ドアが開く
おかしいなあ
19階
そう思いながら
家に着く
Ⅲ―1
家の中に入って
玄関ドアを閉める
鍵をかける
Ⅲ-2
台所で
捨ててきたゴミのかわりの新しいポリ袋を
ゴミ袋かけに掛けながら
あ!
と思い出した
Ⅳ―1
11月も終わり近く
夕方の5時前頃だろうか
外から帰ってきて
1階から22階へと
エレベーターで向かった時
なぜか
階を間違えて下りて
同じ配置の違った家のカギ穴にカギを指し
ガチャガチャまわしたが
ドアが開かないのに戸惑った
おかしいと思い
号室の表示を見ると
19階だった
エレベーターでは
もちろん
22階のボタンを押したし
他の階のボタンなど押していなかったので
エレベーターが止まる階は
22階以外あり得ない
それなのに
なぜか
19階で止まってしまい
エレベーター内で階数を確かめないまま
19階に下りてしまったことになる
ひとりで乗ってきていて
他には誰も乗りあわせていなかったので
もちろん
22階のボタンしか
押していない
Ⅳ-2
22階まで上ろうと思い
19階のエレベーターホールに戻ると
さっきはいなかったはずの
中高生らしい娘がいた
濃紺の制服を着ている
髪は少し長く
後ろに
ポニーテールにして垂らしている
学校指定のものらしい
濃紺のバッグを
右肩に掛けている
娘は
さっき私が下りた
大きいほうのエレベーターの前にいて
エレベーターが来るのを
待っている
エレベーターの中でさっき私がボタンを押し
オレンジ色に点灯させた22階に着いて
しばらく停止しているのが
脇の表示でわかる
エレべーターは
もうすぐ下りてくるだろう
Ⅳ―3
エレベーターを
その娘といっしょに待とうと思ったが
考え直した
下りてくるエレベーターに乗っても
私はいったん
1階まで下りないといけない
なので
乗らずに
19階で待ち続け
エレベーターがもう一度上って来たら
ここから乗って
22階へ行かなければならない
それはそれで
しかたがない動作だが
22階からエレベーターが下りてきた時に
そのエレベーターに先に乗り込んだ娘に
私のほうは乗らない
と告げるのが
なんだかヘンに受け取られるのではないか
と思い
そう受けとられないように短く説明するのも
これもまた
さらにヘンに受け取られるのではないか
と思い
面倒な気がして
階段を上がっていくことに決めた
エレベーターホールには
二基のエレベーターの脇の
住居側に向かう廊下のはじまりのところに階段室があり
ドアを開けて入っていけばよい
19階から22階ならば
3階分だけ上がればいいので
たいしたことではない
Ⅳ―4
階段を上がって
疲れるほどのこともなく
すぐに22階に着き
家に着いた
鍵を鍵穴に入れると
もちろん
今度はちゃんとドアが開く
中に入った
Ⅳ―5
荷物を置き
外出着から着替えはじめながら
それにしてもな
ヘンだな
ちょっとな
などと
考えはじめた
もちろん
19階で下りてしまったこともヘンだが
さっき
エレベーターホールにいた娘が
ヘンなのだ
Ⅳ―6
19階で下りた時
エレベーターホールにあの娘はいなかった
誰の姿もなかった
大きいほうのエレベーターと
周囲が見はらせる窓とのあいだには
ひとがひとり隠れられる程度の空間があって
そこに隠れることは
できることはできるのだが
エレベーターを待つひとが隠れる必要はないし
ふつうは隠れるはずもない
Ⅳ―7
間違って鍵を開けようとした家の玄関ドアで
私が鍵を鍵穴に挿してみている時に
この娘が
どこかの家から出て
廊下を歩いてきて
エレベーターホールに着いた
ということも
あり得ない
その階の部屋の中では
私が開けようとした部屋は
いちばんエレベーターホールに近く
廊下を通ってくる人は
鍵を開けようとしていた私の背後を
かならず通らなければならない
その家に着くまでも
私は廊下に誰の姿も見なかったし
鍵を差し入れている時も
背後にひとの通る気配は感じなかった
鍵を差し入れて
開けようとしていた時間はごくわずかで
5秒も経過しなかっただろう
私はすぐに住居表示を見て
19階であることに気づいて
鍵をすぐに抜いたので
おそらく
間違ってエレベーターを降りてから
30秒もかからぬうちに
ふたたびエレベーターホールに戻っている
たぶん
20秒さえ
かかっていないだろう
Ⅴ-1
Ⅳ―7まで書いて
しばらく
止めておいたが
昨夜
というより
今朝
の3時20分頃
ふたたび
私は
真夜中
ゴミを捨てに
B1まで下りていった
22階から乗ったエレベーターは
19階で止まらなかった
B1で下りて
ゴミを捨ててから
エレベーターホールに戻ってきても
ドアこそ閉まっていたものの
エレベーターはB1に居続けていて
ボタンを押すと
すぐに
ドアは開いた
エレベーターの中で
22階のボタンを押す
オレンジ色に
22階のボタンが点灯する
上っていく
19階が近づく
16階あたりから
心は身がまえはじめる
17階
18階
少し息を呑んだ
19階
止まらなかった
Ⅴ-2
もちろん
時間が違っていたから
に
過ぎないのかも
しれない
夜なら
2時前後
夕方なら
5時前頃
それ以外の時には
19階は
呼ばないのかも
しれない
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