本当の支配慾というものが、
物静かな形をしていることを知らなかったのである。
三島由紀夫『天人五衰』
見ていなかった映画
五社英雄の『226』を見たが
サッパリとまとめていて
なかなかよかった
映画というものは
どこまでいってもビデオクリップでしかなく
これぞというシーンのピックアップ集でしかありえないが
そういう限界性をはっきり認め
それを逆手にとって
俳句や短歌のような攻め方をしてくる時には
それなりの効果を発揮する
完全な熔解状態にまで来た日本の政治を見ながら
226事件の若き将校たちへの共感は
ぼくのなかでは強まっていくばかりである
もっとも軍事の観点から見れば
彼らの日本人認識も軍隊認識も計画も判断も甘過ぎて
まったく評価はできない
陸軍や政府や軍閥についてあまりに緩い見方をした結果として
作戦途中で挫折せざるを得なかった
どうして当初の勢いに乗って
年配の陸軍上層部のほとんどを殺戮しなかったのか
悔やまれる
しかも蹶起してしばらくの時点でなら
皇居に侵入することは容易であったろうし
そこで昭和天皇を殺して別の天皇を立てればよかった
日本史にはいくらもそういう事例があるが
そこまでやらなければこの国の方向を一気に変えることはできない
天皇はそういう時のための装置でもある
できたはずなのにやり通せなかったところに
彼ら226青年将校たちの深すぎる見込み違いと失敗がある
彼らは「尊皇討奸」をスローガンとしたようだが
「皇」とは天照大御神を措いて他にはない
そうして天皇霊を受けとめる人体は複数ありうる
やらねばならないのは新天皇の擁立であり
これに異を唱える者全員の斬奸であるはずだった
日本における革命の変革認識の基礎はこの一点にのみある
新機構を担わせる象徴としての天皇を一瞬に擁立し
それまでの身体はそれまでの時代とともに棄てる
この方法こそが日本革命の永遠の精髄である
天皇をはるかに超越した日本大霊が民にこの時期を知らせ
決意と決行を促すのであり
天皇にではなくその時点までの政体にでもなしに
日本大霊に従うことのみが全日本人の義務となる
その時点までの政体や法体系や慣習に従う者がすべて逆賊であり
すみやかに斬奸されねばならない
映画では
今の新宿区若葉一丁目の私邸で斎藤内大臣を射殺した歩兵中尉坂井
妻坂井孝子を演じた藤谷美和子が
ほかとは隔絶した圧倒的な美しさと魅力を出していた
藤谷美和子は奇行が報じられ
2006年に芸能界を退いたというが
残念に思う
あれだけの存在感を発揮し得たとなれば
それも
しかたなかったかもしれないとも思う
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