以前は、私は怠惰のせいで黙っていたものだった。
スタンダール 『アンリ・ブリュラールの生涯』
Auparavant je me taisais par paresse.
Stendhal “Vie de Henry Brulard”
書いたものが
すぐに忘れられて失われたり
逆に
奇妙な運命をたどって
何年も
何十年も
残っていったり
ながいこと
そうしたことの理由が
わからなかった
書いたものの
魅力だとか
価値のあるなしだとか
人に好まれるかどうかとか
そんなことのせいかと
思い込んできた
ところが
ちがったのだ
だれかに宿った念には
場所も時間も時代もちがう
特定のだれかに
届くように定められたものがある
そういう念は
いかようにしても
特定のだれかに届くのだ
何年経とうとも
何十年経とうとも
遠く離れた
外国語の
地域にであれ
このことを悟ってからは
書かないようにすることを
ぼくはやめた
書くことに
意味があるとか
ないとか
思うのもやめた
ことばに乗っていくのが
よく整理された内容か
わかりやすく
吟味された表現になっているか
迷うのもやめた
すべては
いわば
帯電の問題
波動の問題
さらにいえば
やって来た念の
独自の運命の
問題
書き留める者にさえ
書くことの価値
無価値を
評価はできない
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