2023年2月21日火曜日

ああ!なんと親しい時代遅れの大言壮語!


 

 

De quel nom te nommer, heure trouble où nous sommes ?

Victor HUGO   «Les Chants du crépuscule » 1835

 

 

 

 

 

寝室の隅の書棚には

フランス詩や英語詩のおもなものを

つねづね並べてある

 

暮れがた

寝室の窓を閉めに入ると

ほの暗い書棚のその隅から

こころを惹くものがあって

暗いあかりだけをつけて近づき

一冊を手に取ってみると

ヴィクトル・ユゴーの詩集

『薄明の歌』『内なる声』『光線と影』の

合本だった

 

近ごろ手に取っていなかったので

『薄明の歌』を開いてみると

プレリュードの冒頭には

 

どんな名でおまえを呼ぼうか

われわれのいるこの混乱した時代を?

 

と書かれていて

時代の悪政と戦い続けたユゴーの

面目躍如たる詩句が輝いている

 

おお! 悪政はびこる混乱の時代を

われらに先んじて生きた詩王ユゴーよ!

などと歌うのが

ヴィクトル・ユゴー風ってことになるんだが

いまではもう

そんなご大層な

荘重な歌いっぷりをやれる時代ではない

 

時代の流れとともに

詩の口調はしぼみにしぼみ

ちっぽけな自嘲をちまちま書きつけるか

知的さを気取って冷たい言葉遊びをし続けるか

どこまでもナンセンスに徹してふざけ切るか

なにかのマニアを演じての

キチガイぶりを言葉でやらかすかしか

詩歌の路としては残っていない

 

とはいえ

詩歌ならばヴィクトル・ユゴー

そしてウォルト・ホイットマン

あるいは白楽天や蘇軾などの

中国古典詩しか学ぶべきものなしと

青年時代から方向を定めてきた私には

ああ!なんと懐かしいヴィクトル・ユゴー

ああ!なんと親しい時代遅れの大言壮語!





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