2023年5月28日日曜日

因らず依らず拠らず

 

 

 

妻を亡くした高村光太郎が

「元素智恵子」の中で

こう歌っている


智恵子はすでに元素にかへった。
わたくしは心霊独存の理を信じない。
智恵子はしかも実存する。
智恵子はわたくしの肉に居る。
智恵子はわたくしに密着し、
わたくしの細胞に燐火をもやし、
わたくしと戯れ、
わたくしをたたき、
わたくしを老いぼれの餌食にさせない。
精神とは肉体の別の名だ。
わたくしの肉に居る智恵子は、
そのままわたくしの精神の極化。*

 

あちこち

ずいぶん生硬な言い方をしている

そう感じるが

彼の時代

こんな言い方も

ふつうの言い方のうちだったのか

 

この詩でハッとさせられるのは

 

わたくしは心霊独存の理を信じない。
智恵子はしかも実存する。

 

というところで

これは

うまく表現できたところだな

と感じる

心霊の存在を信じていなくても

いまも

智恵子が実在している

光太郎は

そう感じている

 

常識にも

因らず

依らず

拠らず

理知にも

曇らされず

じぶんの実感を

優先しているところに

詩人というものの

面目躍如

たるものがある

 

詩人は

常識も理知も

信じない人のことを

言うのだから

 

言葉だけを手に

支えなしに

わからなさの中に

立ち続けたり

さまよい続ける人だ

 

因らず

依らず

拠らず

 

高村光太郎という人は信じられる

と感じるのは

こんなところが

見られる

から

 

 


*高村光太郎『智恵子抄』






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