2023年5月30日火曜日

ふたたび梅雨は多くの思い出を


 

ふたたび梅雨は

多くの思い出を雨滴ひとつひとつに込めて

声もなく

誰からも見つけられず

通奏されていく

澄んだ無邪気な流れを

守っていくだろう

 

幼児の足もとの水溜まりに

高い樹の梢のどこかから落ちた一滴が

小さな透いた波紋をひろげていくのを見て

わきに立っていた少年は

なんと老いてしまった自分か!

と驚き

人生で幾つめかの

突き抜けた嘆きに心を染めた

 

はやく戻らねばならないのに

少年はしばらく

幼児の手をとることさえ

できなかった

 




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