「恋の歌とて詠ませ給ひける」
と
『風雅和歌集』に
詞書き
されているものの
世のこと全般に視野は及んでいるのではないか
この歌
大方の世は安げなし人は憂しわが身いづくにしばし置かまし
これも
「恋の歌とて」
と
『玉葉和歌集』にあるが
もっとひろく
捉えて
よいはずだろう
頼めねば人やはうきと思ひなせど今宵もつひにまた明けにけり
くりかえし
くりかえし
憂さを詠んだ
永福門院
人も憂し
世も憂し
すべて憂し
そして
この極点に達する
ものごとに愁へにもるる色もなしすべてうき世を秋の夕暮 *
「すべてうき世」
と
詠んだことで
あらゆる救いのなさをすでに全身の肌に確かめつくし
場所の移動の意義も
地位のようなものの上昇の意義も
衣食住を極める意義も
過ごしやすい季節を迎えるようなことの意義さえも
心の蔵から
剥脱するがままにしてしまって
いっそ
爽やかになって
しまっている
そうして
景
というものは
意義も
意味もなしに
起こる
ただ
起こる
夕立の雲も残らず空晴れてすだれをのぼる宵の月影 **
*玉葉和歌集
**永福門院百番御自歌合
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