歳を重ねたり
しのびよる秋の気のように
老いや衰えが肌に触れてくるのを感じたり
かつては楽しかったはずの
あんなこと
こんなこと
それらいずれにも
もう心は煌めかなくなったり
なにが目の前に現われても
小さな溜め息や
薄いあきらめのヴェールを通してのみ
それらに向かうようになったり
そうなってみても
悪くないこともあるもので
もののいちいちに
分けへだてをあまりつけないようになり
うるさく優劣をつけることにも
まったく頓着しなくなるのも
そうしたことのひとつ
大きな初冬の公園の薔薇園で
秋薔薇がまだ美しくかたちを保っているのにも
昼顔や夕顔のすっかり枯れ尽くした
交番わきの鉄柵に
貧乏葛とも呼ばれる藪枯らしが
まだ青々として
淡緑色の花や橙の花盤がしっかりついているのにも
おなじように充実した美しさや
得がたい存在感を感じ
足の赴くところ
すべて
ひとつとして
見落としたくない
もののありように満ちて
見える
ひび割れはじめた
アスファルトの道さえも楽しく
このあいだ
雨の暮れがたなど
水道局の消火栓の四角い大きな鉄蓋に
向かい側のローソンの電飾の明かりが反射して
アスファルトに四角く
鮮やかな青いひかりがこの世のものならぬ美しさで揺らめいて
しばし心を奪われた
造られてまだ数年も経たない
巨大なビル群のあいだの
いまだきれいな道をたまたま行く時に感じる
非人間的…
とうっかり言いたくなるような
冷たくさびしい印象でさえ
世界というものの今の
貴重な一部分
30年も40年もすれば
これらのビル群も古びてしまい
この道もひび割れてしまうだろう
70年もしたら
もう取り壊されてしまっているだろう
ひととき更地となって
その頃に現われ出る
未来無の姿を想い見つつ
この道をかつて歩いて行った私のことなど
もちろん誰も思いさえしまいが
かつて新しく
非人間的なまでにさっぱりと
鋭角的に
キリッとした佇まいだった
ビル群や道々も
その頃には
私とともに未来無の領域に
居どころを
移してしまっていることだろう
0 件のコメント:
コメントを投稿