2024年1月14日日曜日

久本くんの庭

  


水を

植木鉢やプランターに撒いていたら

ちょっと

離れたところの

バラの葉や

オリーブの葉のあたりに

羽ばたきのような音をさせながら

なにかが飛んでいた

 

とっさに

大きめのトンボか

と思ったが

こんな冬のさなかに

トンボが?

と思い返した

 

晴れた

寒くない午後だったので

どこかで越冬していたトンボが

ふと目覚めて

飛んでみた

ということがあっても

おかしくはない

 

羽ばたきの音が

機械じみた音にも聞こえたので

ひょっとしたら

ドローンだろうか

とも思った

 

ともあれ

飛んでいるのに気づいたのは

一瞬のことで

トンボか

ドローンか

確かめようとしても

もう

どこにも姿はなかった

 

花咲く庭にいるとね

ときどき

飛んでいる妖精が見えたりするんだよ

としゃべっていた

小学校時代の友だちの

久本くんを

ふと思い出した

 

なんどか

久本くんの家の庭に

花を見に行った

 

ぼくはこの庭だけが大事で

ほかのことは

ぜんぶ

どうでもいいんだよ

と久本くんは言っていた

花がいっぱい

きれいに咲いても

花が咲かなくて

雑草や枯れ草ばかりの冬でも

この庭だけが

どきどきするほど

好きなんだよ

 

ただここにいて

座って草花を眺めていたり

突っ立って

からっぽの頭で

空を見たり

草花の上の空気を見ていたり

目をつぶって

きのうの雨の乾いていくにおいや

土のにおいを嗅いでいたり

 

そんなふうに

してみているのが

ぼく

久本くんは言っていた

 

トンボか

ドローンか

わからないけれど

久本くんよりもずいぶん遅れて

妖精が

一瞬だけでも

見えた

可能性だって

まったくないわけでは

ない

 

 

 



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