あやしうこそものぐるほしけれ
吉田兼好 『徒然草』
『宇治拾遺物語』といえば
十五の「大童子鮭ヌスミタル事」も
おもしろい
越後国から鮭を積んできた馬が
二十頭ほど
京の粟田口の細道を通過していくところに
むさ苦しく
うさんくさい感じの
目つきのしょぼついた
童子髪の年配の男が
駆けよって
鮭を二尾引き抜いて盗み
懐へ押し込んだ
「こいつ、鮭を盗んだぞ」
と運搬人たちに咎められたが
童子髪の男は否認し続ける
そればかりか
盗んだのはおまえのほうだろう
と言い返すしまつ
それじゃあ
衣を開けて見せてやろうと
運搬人は下袴を脱ぎ
懐を広げて見せる
そうして
こんどはおまえのほうだ
と童子髪の男に求める
そこまでしなくてもいいじゃないか
と童子髪の男が拒むので
運搬人は男の衣を脱がせて
前を引き開けてみると
鮭をふたつ腰にくっつけていた
ほら見ろ
どうだ
と突き詰められて
童子髪の男が返した言葉が傑作だった
「あはれ
勿体なき主かな
こがやうに裸になしてあさらんには
いかなる女御
后なりとも
腰に鮭の一、二尺なきやうはありなんや」
「まったく
なんてことをするお人だ。
こんなふうに裸にして
探したりしたら
いかなる貴い女御や
お后さまだって
腰に一尺や二尺の“裂け”のないはずが
ないじゃないか」
中世のこの時代
「裂」は
女陰を意味する言葉だった
性行為を務めとする
女御や后を出してきて
一瞬に
sakeという発音に
「鮭」と「裂」を
かけて言ってみせたところに
もちろん
おもしろみがある
一尺は
30センチほどの長さを表わすが
「尺」はまた
鮭や鱈を数える単位でも
ある
ところが
もっとおもしろいのは
女陰が
30センチも60センチも伸びている
というイメージを
童子髪の男が
パッと出したところであろう
30センチや60センチ
というのは大げさでも
女性によっては
外陰部が長く延びている場合もある
歳をとったり
性交経験が多いと
そうなる場合も増える
女御や后という
ふだんは「貴い」とされる女人に
こうした延びた外陰部のイメージを重ねたところに
童子髪のうさんくさい感じのオヤジが
内面に持っているイメージ世界が垣間見えて
おもしろいし
おそろしい
オヤジが
内面に抱えているイメージ世界の
おそるべき豊饒さは
中世の頃から
瞠目し
畏怖すべきものである
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