2024年10月16日水曜日

甘えて信じ込んでいるきみがむしろ恐い

 

 

 

いつを限る習ひぞや。

老少といつぱ分別なし。

変はるを以て期とせり。

誰か必滅を期せざらん。

誰かは是れを期せざらん。

世阿弥 『檜垣』

 

 

 

 

就活している学生から見せられた歌に

スーツを着ることで

わたしらしさを

押し殺されてしまう

という意味のものがあった

 

「わたしらしさ」は

スーツを着るぐらいのことで

押し殺されるものではない

と返しておいた

 

この学生は

やがて

生の終わり近くに大病などして

毛髪を無残に失い

筋肉も衰え

肌の艶も張りも失い

じぶんでトイレに行く力も失う時に

心に「わたしらしさ」を

どう維持するつもりだろうか

 

世界の情勢の

ちょっとした悪戯から

殲滅収容所に向かわされて

自由さや自立性や

健康や浮薄な個性のたぐいを剥奪される時

霊において

魂において

「わたしらしさ」に

その時でも

まだ拘泥するのだろうか

 

服装で

「わたしらしさ」が出せる

などと

甘えて信じ込んでいるきみが

むしろ

恐い

 

毛髪を失い

筋肉も衰え

肌の艶も張りも失い

じぶんでトイレに行く力も失っても

なお

維持される

「わたしらしさ」を

はやくから獲得しようとしない

きみが

恐い

 

殲滅収容所に向かわされて

自由さや自立性や

健康や浮薄な個性のたぐいを剥奪されても

なお

維持される

「わたしらしさ」とは

なにか

つかのまの生の迅速のなかで

それを獲得しようとしない

きみが

恐い






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