駿河昌樹 詩抄
気ままな詩選を自分の愉しみのために。制作年代も意図も問わず、まちまちに。
2013年12月26日木曜日
生きている
…そして、ふしぎなことばかり
ありますね
だって
生きているんですもの
生きている
みたいでしょ
たぶん
生きているよね
たとえ
死んだって
かならず
なにかの状態になるわけで
それを
生きている
って
いうんですよね
だから
生きている
いつでも
どうしたって
2013年12月25日水曜日
やや理屈っぽいエレジー
あなたの本当に親しいひとが死ぬまでは
あなたには死はわからない
親しいそのひとは
あなた自身のあちこちのかたちをじつは支えてきていて
そのひとの死によって
あなたのあちこちが崩れ出すのを
あなたは経験する
けれども
親しいそのひとの死によって
あなたは死などないのだともわかる
もうどんな声をかけ思いを投げかけても
そのひとからは声は戻ってこない
それが死ということで
あなたはそのひとの応えも答えも
これからはひとりで演じていくことになる
そうしていくうち
なにもかわっていないことに
あなたは気づいていく
そのひとが答えてきた程度のことばなど
あなたの意識は容易に作ることができ
もし今をひとりだというなら
そのひとが生きて返してきていた時でさえ
あなたはひとりだったと気づく
そう
あなたがあなた自身を意識する時には
あなたはつねにひとり
目の前にそのひとがいようと
いまいと
あなたがあなたを自覚する時には
あなたは永遠にひとり
そうしたら…
盲目すぎるぼくらは
楽しいとか
悲しいとか
ここちよいとか
悪いとか
まだそんなシグナルに沿いながら
まぼろし沼を
泳ぎつづけている
家畜を育てたり
殺したりし
さまざまな食材を
ふんだんに手にいれながら
じぶんたちも
食材や家畜であるのを
ほんの何十年か
忘れながら
ほんとうかどうか
知らないけれど
人体が生れて
しばらく生きつづけ
死んでいくことで
はじめて
生成される元素が
あるのだという
ほかのかたちでは
けっして
作られないのだとか
その元素が必要で
宇宙は
人間を作ったらしい
じゅうぶんに
元素が作られたら
人間という手段も
いらなくなる
そうしたら…
ということらしい
セネカ
寒い朝に起きて
ずいぶん似つかわしく感じるのは
コーヒーを淹れて
パン・ド・カンパーニュや
ゴマなんかをまぶしたパンを
うすく切り
寒くて固まっているバターを
うすく削いで
かつおぶしみたいに載っけながら
お皿もカップも書斎に運んで
たくさんの本やパソコンの前で
ひとしきり
食べ続けること
マラルメも
ヴァレリーも
忘れてはいないけれど
いちばん思うのは
セネカだな
いわく
〈よい心には
〈少数の書物がよい
ニーチェさん…
〈からだは嘘をつかない…
ゲシュタルト療法師のフリッツ・パールスも
こう言っていたけれど…
〈からだとはひとつの大きな理性であり
〈本物の自己はからだに住んでいる
ニーチェのことばを思い出して
年の終わりを迎えつつある
からだが主体だとも
からだ=自己だとも
ニーチェは言っていないんだな
ひとつの大きな理性であるからだに
住んでいる本物の自己、か
ニセモノの自己も
いるっていうことだな
自己が住んでいるのは
からだの中とは言い切っておらず
からだに
と言っているから
からだの表面にいるのかも
しれないんだな
なにか真理じみたことを
彼が言ったなんて思ってはいなくて
ことばの
ことばっぷりをよく知りながら
書いた彼のことだから
おもしろいんだな
いろんな概念の
ひっかかりっぷりが
ニーチェさん…
またあなたが
楽しくなってきちゃったよ
感激体質の
ヒトラーさんが
あなたの全集をスターリンさんに贈ったりしたが…
ニーチェさん…
メリークリスマス!
クリスマスプレゼントに
また
ガザ空爆
スーダンではあのありさま
シリアでもパンパン
こぜりあいだの
心理戦だの
なわばり争いともなれば
みなさん
どれかひとつの
渦中にあらせられる
メリークリスマス!
2013年12月24日火曜日
栗色の髪の毛を食べる
ひさしぶりにいい感じの女の人に会っているな
と思っている
そんな夢
どこかの大きなパーティーで
しっかりした円卓かなんかで隣りあって
カクテルを飲みながら
おしゃべりしているんだけど
その人の栗色の髪の毛を
ちょくちょく切っては
それを口に運んで
食べているんだ
ぼくは
あ、そっちばっかり切らないで
と女の人が言うが
だいじょうぶ
なんて言いながら
またそっちの髪を切って
ぱくぱく
口に運んでいる
そんな夢
とにかく
いい感じの人に会って
ながくながく
その人の髪の毛を
食べ続けている
そんな夢
重くなるほどふわふわ
これも夢の話
すてきな
すてきな
なんともすてきな
手提げバッグに出会った
きれいな皮革製で
ものがいっぱい入ると
ずいぶん膨らむ
膨らむと
皮革はてかてか
よけいにキレイになる
いっぱい入れたら重くなるので
ふつうなら避けたいが
このバッグ
ものを入れれば入れるほど
じぶんで浮き上がってくれる
重くなるほど
ふわふわ
膨れるほど
ふわふわ
手を放しても
脇で浮いていてくれる
どこかの外国の広場だったな
これに出会ったのは
うれしくて
これからは荷物が楽になるぞ
と周囲をみまわし
美しい広場の光景まで楽しんで
よし、買おう
と決めた
あの商人
ちゃぁんと
取り置いていてくれるかな
あのバッグ
あの広場にまた行ける
つぎの夢を
見るまで
2013年12月23日月曜日
クリスマス
クリスマスは祝わない
クリスマスケーキも買わないし
クリスマスパーティーもしない
クリスマスカードは書かないし
クリスマスの飾りつけもしない
けれども
時間のぽっかりできた午後
そして
夕方
灯火のそばで
やさしく舞う粉雪や
たくさんのプレゼントの思い出
大きなケーキの上の
やわらかいホイップクリーム
そんなあれこれを
思いえがく
思い出す
あゝどれもこれも
経験し尽くしてきたこと!
山奥の凍るような教会での
クリスマスミサも
恋人とのディナーも
友人たちとの
夜どおしのパーティーも
いまでは
時間のぽっかりできた午後
そして
夕方
灯火のそばで
そんなあれこれを
思いえがく
思い出す
さびしくもなく
羨ましくもなく
たったひとり
火のはぜる音を
ときどき聞きながら
大きな窓からは
むこうに壮麗な山並み
そのむこうにも
輝く白い嶺線
山をいくつも越えて
つかの間
憩っているこの高原の
がらんとした大きな山小屋
ごく珍しく
時間のぽっかりできた午後
そして
夕方
灯火のそばで
わたくしは
わたくし自身とのかかわりを
わたくしのことばと
思念と
沈黙とを以て
寿ぐ
気まぐれ
社会のことを扱うのか
扱わないのか
どこまで扱って
どこから扱わないのか
そんなことを思ってから
詩歌に向かわなければいけないっていうのは
いやだな
ビー玉のように
おはじきのように
気まぐれに
ことばを扱いたい
気まぐれには
きのう今日の天気だとか
食べたお菓子の味だとか
すれ違ったひとの笑顔だとか
たくさんのことが溶け込んでいる
だから
ほんとうは
気まぐれなんかじゃなくて
だいじな
だいじな
生の瞬間なのさ
社会
の前に
だいじな
だいじな
気まぐれがあるだろう
って思うのさ
前世だとか 同時並行宇宙だとか
夢のなかは
あきらかに江戸時代で
徳川家とほかの家とがくっついたヘンな場所に住んでいて
わたしの部屋は徳川家の屋敷のほうにあるのだが
なにかと用事でべつの家に行かねばならず
行ったら行ったで
どういうわけだか戻るのがけっこうたいへんで
守衛たちが槍で止めようするのを
徳川様に参るでござる
徳川様に参るでござる
などと大声で叫びながら
勢いをつけて
こちらの廊下
あちらの廊下と
けっこう豪華な着物を来て
走りぬけていかねばならない
そうして徳川家の中のじぶんの部屋に戻ると
ようやく一息つくという感じなのだが
どうにも不思議なのは
こんな夢を見るような刺激を
この現世で昨今
どこで受けたとも知れないということ
こんな夢をほぼ二週間も見続けているので
やっぱり
前世だとか
同時並行宇宙だとか
考えなければならないんだなと
また追いつめられている
わたし
2013年12月21日土曜日
こわくないよ、こわくないよ、
養護学校が近くにあるらしい
顔なじみの子たちが
バスに乗り込んでくる
(ぼくのことなど
(かれらは覚えていまい
(世の中と同じように
(神や天使たちと同じように
(でもぼくは覚えている
(ぼくだけが
(この世のこと
(あの世のこと
(すべてを覚え続けている
(だから
(たまに天使がものを聞きに来ると
(しぶしぶ教えてやったりもするわけだが
こわい、こわい
と言い続けている子がいる
バスはふつうにゆっくり走っていて
こわいこともなさそうなのに
こわい、こわい
と言い続けている
バスというものがこわいのか
ちょっと混んでいるのがこわいのか
こわい、こわい
と言い続けている
けれど
その子にむかって
ちょっと離れたところにいる
あたまの小ちゃい子が
こわくないよ、
こわくないよ、
だいじょうぶだからね、
こわくないからね、
と
ときどき
言ってやっている
こわい、こわい、のたびに言うのでなく
ときどき
言ってやっている
この間のとりぐあいが
なかなかのもの
他人でいっぱいのバスのなかを
じぶんたちのことばだけで占めてしまわないように
ちゃんと配慮している
こわい、こわい、
こわくないよ、
こわくないよ、
だいじょうぶだからね、
こわくないからね、
こわい、こわい、
外には
晴れわたった夕がた
いくつか
ポツンと見えている雲
信号待ちの
犬をつれたおじさん
犬はちょっと口を開いて
舌を出し
どこかを見つめている
こわくないよ、
こわくないよ、
だいじょうぶだからね、
こわくないからね、
あたまの小ちゃい子が
また言う
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