2022年9月3日土曜日

思わしておく

 

 

また

なにか

小川もないのに

葉でも

言の葉でも

いや

事の葉でも

古都の端

宿で

冬子とゆっくり午後を過ごして

ならば

ことのは

とひらかな書きで

してみたほうが

よさそう

 

そうね

華は

死んだのですものね

お墓を

きのうわたくしたち

洗って

ちょっといいお線香を手向けて

お花は

でも

野で摘んだ花

 

華は

ぼくのいちばんの愛人

 

冬子

きみは二番の愛人

 

それははっきりしている

 

だからといって

きみへの

愛情が欠けているなんて

ことは

ないんだよ

 

わたくしは二番の愛人

 

いいんですの

 

よくわかっておりますの

 

二番の愛人に

なりたかったなあ

わたくし

少女の頃から

 

取り憑かれて生きてきましたのね

そんなもの思いに

 

二番の愛人

という

しあわせ

 

そのかわり

一番の華がいない

しあわせ

 

(愛人

などと言っているけれど

華とはなんにも

なかった

華に

愛人などと言ったこともなかった

華はどう思っていたか

それさえ

聞かなかった

いっしょにいることさえ

ほとんどなかった

でも

あなたがいるとうれしい

あなたはほんとうに大事なひとだ

などと

よく伝えただけ)

 

ぼくは思う

よく思うようになった

いわば

地の文を

捨ててしまうことだ

なになになになになになになに

と思った

と思った

捨ててしまうことだ

 

セリフの

カッコの部分さえ

捨ててしまうことだ

 

セリフも

思いも

野に

空中に

水上に

放ってしまうことだ

 

冬子の乳房は熟れた桃

 

華のそれは知らない

 

華のそれにぼくが耽溺したと

冬子は思っている

 

思わしておく





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