2018年7月14日土曜日

町には町の

 

町には町の声

そこに住む人たちの声ではなく
生活の音でもなく
行き交う車の音でもなく

町には町の声



まごころから成る歌なら



そよ風がどれほどさいわいなるものか
熱暑のときにはわかる
そよ風を讃える歌を恥ずかしげもなく歌うべきではないか
空の青さはしっかり受けとめてくれるだろう
まごころから成る歌なら
自然たちが無視することはありえない




もうわたしでもないものに


 
むかしのわたしの不幸が
いまはそれなりに美しいとも見える石となったようだ

それはもうわたしの外にあって
わたしではない

壊したり
どこかの深い谷へ捨てに行ったりして
目につかなくさせるべきかと思うこともあるが
もうわたしでないものに
そんなことをすべきでもない




そんな森もあったというだけのこと



人目を気にするばかりで
まるで
それによって
一度かぎりの生が充溢しでもするかのように
日々
あたらしい時間つぶしの具に
差異を生むためだけの小細工に
こころを浮遊させてしまっているひとびと ば、か、り、

そんな森もある
そんな森もあったというだけのこと

こころを浮遊させてしまう時
たましいは奥まったところへどんどん沈降していってしまう
たましいには時間つぶしの具は通用しない
たましいは他のたましいとの差異をもっとも嫌う

あゝ、束の間の時間つぶしの具を
文化だとか
至上の…だとか
クリエイションだとか
美だとか
呼んで
たましいから離れ続けるちっぽけな子ら!

まるで
それによって
一度かぎりの生が充溢しでもするかのように



自動でわたしの科学が完璧に機能するもっとも懐かしい場所



起こることは
どれもそうなるべきことで
多くの法則の密に絡まりあったすえの
そうとしか成りようのない束の間の結果なので
嘆いてもしかたがない
むしろ冷徹な科学の領域でとるべき態度を求められているのだと
すみやかに姿勢を正すべきだ
運命には運命の科学
危機には危機の科学
疲労には疲労の科学
他の分野の科学をみだりに適用しようとしないのも科学

もう揺られて行きたい運河もないというのに
黒光りする水面を間近にしながら
入り込んでいきたい霧があり
そのなかの近づいていきたい木立の並びがある

科学を捨てるべき場所ではなく
自動でわたしの科学が完璧に機能するもっとも懐かしい場所



無限とまではいわずとも多色のとりどりの色彩に

  

大きなりっぱな紫陽花の花々だが
どれもうすい
ほんとうにうすい紫色なので
石柱と一体になった彫刻のようにも見える
そう見てみたい気持ちがする

ひとに知られず
求められもしないことにもすっかり慣れて
彫刻のようなかたさも
いつのまにか脱ぎ去ったこころで

うすいどころか
なによりも濃いかもしれない
無限とまではいわずとも
多色の
とりどりの色彩にいつか染まっていた
こころで



わたしは少し恥ずかしい

 

わずかだが揺れている

柱廊には
いま
誰もいない

柱たちが
わずかだが揺れている

じぶんで揺れている

いちばん光量のつよい電灯を受けて 
柱たちの影が一方向に伸びている
それらの影も揺れている

なにか露骨過ぎるものを
うっかり見てしまったように
わたしは少し恥ずかしい

揺れている
じつは
やわらかさもある柱たち

わたしは少し恥ずかしい