……がとてもいたい《 ひとりでの
帰りの店(いつもデハナイカ?、 ヒトリデノ、イツモ、カエリ……)
ネギラーメンと餃子を食べていた*
ひさしぶりに
記憶がうしろへ 記憶 わたし という生き物の やはり
母か (ホカノハハハ、イナイ、ダレニモ?) 見つけたのは
》君がすさんだ瞳で、強がるのが、とても痛い《**
中島みゆき ひさしぶりに
ひさしぶりの 日 今夜今宵今宵こよいこ、よ、い、こ、よ、い、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、思いが散らないめずらしい瞬間が続いていく感じがしてきたと思ったら遠いとしかいいようのないひとの群れがほの明るい地平のほうから近づいてくる気配があってまるでこちらをめざして近づいてくるようなので目を凝らし耳を凝らしおそらくはわたしのほうしかしわたしとはややずれたところにいまこの瞬間瞬間にあるなにかにむかってこそ近づいてくるのかと思いの枠を訂正してみるとたしかにわたしのごくごく近くにわたしとは少しずれてなにかがあるのがそこから少しずれたわたしにも感じられてわたしはふいに恋に落ちるようだったが少しのずれにむかって恋に落ちていくのかそれともわたしにごく近いけれどわたしでないものにむかって恋に落ちていくのか恋に落ちていくというしばらく離れていた気持ちにむかってこそ恋に落ちていくのかまだ実体として現われでないものにむかってたぶん異性だか同性だか無機物だかわたしの近い未来のこころの凹凸にぴったりとあった馴染んだ衣服よりもふいにふいに親しい相手の出現の予感へと恋に落ちていくのかなんとも決められなかったのだけれどもふいにふいにふいにふいにこれもあれもいい感じになってしあわせという言葉が脳のそこここにはびこっている感覚があざやかに咲いて六月六月とつぶやくと紫というより濃青の紫陽花の記憶のなかにいたわたしはさらに降下(だろうか)上昇(だろうか)移行(だろうか)漸進(だろうか)急進(だろうか)雪で道いちめんどころか街いちめんの凍った日にゆっくりととりかえしのつかない然るべき(とでも呼ぶべき状況へと)車が車が車が車が車があちらこちらで横滑りしていくあの足のない者たちのような姿で進んでいきもう六時半だ日曜日も終わるというドコカラキタノオマエトイウキオクノコエハ?ほのかに追い詰められたようなこころの血の滲みそれともただの思考のリンパ液くちびるの端から洩れた唾液のようにそんな言葉は浮かんできてだれから押しつけられたわけでもないのに追い詰められている細々と立つ影をわたしという壁のない部屋の縁にささえることを強いられているわたしがいたのに気づかされると記憶=母を呼んで呼び起こして彼女の海に暗い夜なか星もなくて油のような水がやわらかくうねるだけのなかにわたし の暗い黒いみえないけれど触れるからだになってしばらくわたしの外を泳ごうと要求したい気になり海に(でもまだ夜でない海。いつも欲望はどこか欠けて満たされるので、逆にわたしはそれを喜びとするようになった。街灯の立ちならぶ海できみは浮いていたことがあるかい? わたしの場合それは亡くなった暁の姉だった。乳房にガーベラを咲かせていた三番目の姉。銀のフォークがテーブルのうえで透き通った青い魚になっていくのをふたりでなんども眺めた。どこまでも街灯のたちならぶ海で、わたしたち、裸で夕暮まで寝た。わたしには五つの乳房があった。姉には牙があって、わたしの乳房をときどき牙でわずかに裂き、細い、細い、長い血の傷をひいた。ふたりで血を吸いながら、水ながら、水、ながら、星雲の雑誌を開いた。時間が母の残された帯、古革のベルト。 アクセントがやわらかくなる、たぶん、蕩けていく。ね、ね、ね、ね、ねえと父なら言ったところで、姉は母をなんども食べた。ガーベラの姉。いちじくの警察官。修正液を海では使わなかった。一ページで八十行もある料理の本を片手に、わたしは姉をした。 火はわたしと姉が停止する背中。理解、ふ、理解、陰毛のうつくしいイルカを見たよ。 妹ははやく死んだ。神だ。生きているほど、しかし、神はない。神、と、海紙に海上で書いて、欠いて、炸裂するようなHBの鉛筆をペン皿に戻すと本たちが回帰してきて、わたしを欲望した。波立つ、涙津の浜。ノア。やり過ぎよ、と、姉/わたしは言った。 やり過ぎよ。けれど、やり過ぎだけが生きた気持ちを生む。諦め無し、無し、で行こうよと言った。わたしは言った。言った。言った。波のすっかり止まる、凪いだ、波野。 住む、棲むとはどれほどの深みだろう。ふかく棲んだことがあなたはありますでしょうか。記憶の深みはいつわりかもしれない。思索の深みは、言う、も、愚か。紙、紙、紙の何枚もの積み重ねを深みと言い得ますでしょうか。ただの重なりではございませんか。いつから、とよく言葉にします。紅葉のように、目の前にしてみればあっけらかんとした存在の言葉。いつから、いつからか、いつのころからか、、、、。はあ、と受けます。はぁ、そうどすな。わたしは、姉のはあだったかな。波の止まった波野のひと。端正に波の着物を纏い、わたしだけが記憶の女だった気もする。わたしの外、女というものに出会ったトイウ記憶がない。姉は牙の海風。コップがいそぎんちゃくのくちびるをくちびり、コップの底にはいつもいそぎんちゃくの膣がバラの星雲、閉じなさ、閉じないでいる。しだいに記憶は閉塞してくる、のか、記憶をよく開き続けていくちからに、欠けているだけか。欠けやすいと、いうべきか。ひとの記憶はひとであることによって限られ、宇宙とつぶやいてみても、それはひとがつぶやいた宇宙。嘘につながる一切は、やがて止まる。ほっ。ほっ。止まる。潮のうつりかわり。波の、流れの停止。色の、かたちの止まり。おだやかな時に、 )頂点がある。
仮のたとえで旅と言ってもいい、ある日、あまり読書しないひとのように
たとえば待ち合わせで《ひさしぶりに》下北沢の博文堂書店に入り***
Danielle SteelのThe Gift(Corgi Books, Great Britaln, 1994)を買い、
その日のうちに第一章を読み終わる。ふかく、眠りのふかさへ、落ちていくように
(名を忘れた…)甘味処でていねいに焼かれたプディングを食べる。
ひとりで……だれとまだ、会うべきだろうか? スプーンを口に運ぶ手から
よみがえる(脈絡もない、か、の、よう、に、)ヴィクトル・ユゴー、
Il neigeait. On était vaincu par sa conquête.
(侵略、敗北、雪ばかり降り、
Pour la première fois l'aigle baissait la tête.
(かの鷲、はじめてうなだれ、
Sombres jours! l'empereur revenait lentement,
(日暗く、皇帝帰還の歩は重く、
Laissant derrière lui brûler Moscou fumant.
(紅蓮のモスクワを後に、
Il neigeait. L'âpre hiver fondait en avalanche.
(酷冬なだれ、雪ばかり降り、
Après la plaine blanche une autre plaine blanche. ****
(白原、また白原、
……だれとまだ、会うべきだろうか?ひとりで、
紅蓮のモスクワを後に
記憶、母、姉、あゝ、ガーベラの姉に侵入(侵略?)され
Danielle Steelの 〈Magical Bestseller〉に侵入され
ながく子の得られなかった夫婦に生まれた奇跡のような女の子が五歳で
髄膜炎でふいに死んでいくのに立ちあう
……for five beautiful years... five tiny short years... *****
(五年のすばらしい歳月……たった五年の、みじかい……
……She had come to them as a gift five and a half years before, and had brought them nothing but love and joy, and now they could do nothing to stop the gift from being taken from them, except pray and hope, and beg her not to leave them. ******
(この子は五年半まえ、賜りものとして彼ら夫婦に与えられ、愛とよろこびだけをもたらした。いま、この賜りものが奪われるのを押し止めることはなにもできず、ただ祈り、期待するばかり、そうして、行ってしまわないでと、この子に頼むばかり)
こんな記述としばらく生き プディングを終わる。また、わたしの
「わたし」の(?)、人生に合流していくところで、40ページを閉じるときに目に
飛び込んでくる
to be angels in the snow, and now, *******
(雪のなかでみんなで天使、そして、いま、
……救いの手、ですね、
受けとめて、
文脈はずしの神、あなたの、
霧のような、といっていいでしょうか、あたたかい波が、押し寄せてきています、
どれほどの深みだろう、棲むとは。
ふかく棲んだことがあなたはありますでしょうか。
記憶の深みはいつわりかもしれない……
あなたの、
霧のような、といっていいでしょうか、あたたかい波が、押し寄せてきています、
*江古田駅前「蔵太鼓」のねぎラーメンと焼き餃子。
**『空と君のあいだに』(中島みゆき作詞・作曲、瀬尾一三編曲)。
***ピーコックちかく、以前の白百合書店。
****Victor Hugo : L'expiation(Jersey, 30 novembre 1852) in Les Chatiments(1853)
*****Danielle Steel : The Gift(Corgi Books, Great Britain, 1994) から。
******おなじく。
*******おなじく。訳は、文脈のわずかな糸一本のみに忠実で、後の文脈すべてを捨てた極度の直訳(?)。
[初出] NOUVEAU FRISSON (ヌーヴォー・フリッソン) numéro 84 (1999年5月)
編集発行人 駿河昌樹
発行場所 東京都世田谷区代田1-1-5、ホース115ー205 〒155