2026年10月22日木曜日

雨の降らない国から来た真珠

 

 

1

 

ぼくと別れないでくれ

ぼくと別れないでくれ

ぼくと別れないでくれ

ぼくと別れないでくれ

 

と

男が

くり返し続ける

 

ほんとうに

何度も

何度も

 

ジャック・ブレルの歌

『別れないでくれ』

 

フランス語

だと

 

ヌ・ム・キット・パ

ヌ・ム・キット・パ

ヌ・ム・キット・パ

ヌ・ム・キット・パ

 

と聞こえる

 

綴りだと

 

Ne me quitte pas
Ne me quitte pas
Ne me quitte pas
Ne me quitte pas

題名も

『ヌ・ム・キット・パ(Ne me quitte pas)』

 

 

Jacques Brel - Ne me quitte pas (Official Lyric Video)

https://www.youtube.com/watch?v=e0esAGxzP6Y

 

Jacques Brel - Ne me quitte pas

https://www.youtube.com/watch?v=oR_SZR_tmxM

 

 

 

2

 

これを

聴くのに

季節は

いつでもいい

 

けれども

深まっていく

秋の頃は

やはり

いい

 

 

 

3

 

ぼくと別れないでくれ

 

と

とりあえずは

訳したが

どう訳すのがいちばんいいか

悩む

 

日本語だと

 

捨てないでくれ

 

のほうが

ダイレクトで

わかりやすいが

この国の歌謡の歌詞の伝統は

男には

「捨てないでくれ」

とは

言わせないだろう

それは女のセリフであり

やはり

「別れないでくれ」

程度で

持ち堪えたいのが

日本歌謡のなかの男であるような

気がする

 

 

 

4

 

行かないでくれ

 

という訳も

思いつく

が

これにはどうしても

それまでいっしょにいた場所から

相手が去って行く

という

イメージが付着する

 

昭和には

そんなイメージを利用した歌謡曲が

ずいぶんあったが

場所から去って行くイメージに

強調点を置きたいわけではない

 

となると

この訳も選べない

と思う

 

それまでいた場所にいっしょに居続けるイメージや

そこから去って行くイメージなどを

はるかに超えた

決定的な別れもあるのだから

それを

場所のイメージで

いい加減に弱めてしまいたくはない

 

 

 

5

 

そんなことを

いつも

つらつら

思いながら

聴いて

みている

 

ヌ・ム・キット・パ

ヌ・ム・キット・パ

ヌ・ム・キット・パ

ヌ・ム・キット・パ

 

 

 

6

 

ただの

昔の

フランスの歌謡曲

ポップス

と思って聞き流そうとすると

ときおり

ハッとさせられる

 

Moi je t'offrirai
Des perles de pluie
Venues de pays
Où il ne pleut pas

きみに贈ろう

雨の真珠を

雨の降らない国から来た

真珠を

 

雨の降らない国から来た真珠とは

涙のことだろうが

そんなつまらない比喩の読み解きごっこよりも

「雨の降らない国から来た真珠」

という表現の創出自体がすばらしい

 

Il faut oublier             
Tout peut s'oublier
        
Qui s'enfuit déjà
           
Oublier le temps
          
Des malentendus
        
Et le temps perdu
         
A savoir comment
Oublier ces heures
Qui tuaient parfois
A coups de pourquoi
Le coeur du bonheur

このあたりも

歌いやすいように簡明に訳すのは

むずかしいが

 

忘れなきゃいけない

忘れられないものなんてないんだから。

だいたい、もう過ぎ去っているんだし。

いろいろな誤解のあった時々を忘れよう。

ああした時間をどうすれば忘れられるか考えて、

無駄に過してしまった時間も。

なぜ?なぜ?という問いで、

心の幸せをたびたび殺してしまったああした時間を。

 

と

ごたごたするのを覚悟で

込められている意味を

ちゃんと読み取ろうとしてみると

めんどうな問題を

なかなかよく表現しているものだ

と感心する

 

そうして

最後はどうだ?

 

Je ne vais plus pleurer
Je ne vais plus parler
Je me cacherai là
A te regarder
Danser et sourire
Et à t'écouter
Chanter et puis rire
Laisse-moi devenir
L'ombre de ton ombre
L'ombre de ta main
L'ombre de ton chien
Ne me quitte pas
Ne me quitte pas
Ne me quitte pas
Ne me quitte pas

ぼくはもう泣かないから。

もう話さないから。

もう姿を現さないから。

そうして、きみのことを見つめ続けるから。

きみが踊るのを、微笑むのを。

きみが歌うのを、笑うのを聞き続けるから。

きみの影の影になるのを許してくれ。

きみの手の影に。

きみの犬の影に。

だから、別れないでくれ。

別れないでくれ。

別れないでくれ。

別れないでくれ。

 

 

 

7

 

フランス語での作詞において

きわめて優れた力を発揮し続けたジャック・ブレルは

ウィキペディアによれば

「日常から類まれな詩作を苦も無く生み出せる

革新的かつ創造的な芸術家」

とか

「ありふれた単語を並べただけの中に

斬新さと芳醇さをもたらす能力において

彼と比肩する者を探し出すことは難しい」

とさえ評されている

 

フランス語のシャンソンの世界や

ポップスの世界には

同じような評価をしたい作詞家がいっぱいいたので

とりたてて

ジャック・ブレルのことを

ここまで言わなくてもいいような気もするが

それでも

この稀代の作詞家にして作曲家にして

さらに

忘れがたい強い声の持ち主に

 

ヌ・ム・キット・パ

ヌ・ム・キット・パ

ヌ・ム・キット・パ

ヌ・ム・キット・パ

 

と歌われると

やはり

いつまでも忘れられない

 

ふとした時に

思い出し

 

ヌ・ム・キット・パ

ヌ・ム・キット・パ

ヌ・ム・キット・パ

ヌ・ム・キット・パ

 

と

つぶやく

 

だれにむけて

言うでもなしに

 

こんなことを

言うべき相手など

だれも

いないのに

 

ヌ・ム・キット・パ

イル・フォ・トゥブリエ

トゥ・プ・スブリエ

 

Ne me quitte pas          
Il faut oublier
             
Tout peut s'oublier
 

 

別れないでくれ。

忘れなきゃいけない。

忘れ去られないものはない。

 

と

つぶやく

 

 

 

8

 

試訳

 

NE ME QUITTE PAS(1959)     Jacques Brel


Ne me quitte pas
          
Il faut oublier
             
Tout peut s'oublier
        
Qui s'enfuit déjà
           
Oublier le temps
          
Des malentendus
        
Et le temps perdu
         
A savoir comment
Oublier ces heures
Qui tuaient parfois
A coups de pourquoi
Le coeur du bonheur
Ne me quitte pas
Ne me quitte pas
Ne me quitte pas
Ne me quitte pas

ぼくと別れないでくれ。

忘れるんだ。

忘れられないものなんてないんだから。

だいたい、もう過ぎ去っているんだし。

いろいろな誤解のあった時々を忘れよう。

ああした時間をどうすれば忘れられるか考えて、

無駄に過してしまった時間も。

なぜ?なぜ?という問いで、

心の幸せをたびたび殺してしまったああした時間を。

だから、別れないでくれ。

別れないでくれ。

別れないでくれ。

別れないでくれ。


Moi je t'offrirai
Des perles de pluie
Venues de pays
Où il ne pleut pas
Je creuserai la terre
Jusqu'après ma mort
Pour couvrir ton corps
D'or et de lumière
Je ferai un domaine
Où l'amour sera roi
Où l'amour sera loi
Où tu seras reine
Ne me quitte pas
Ne me quitte pas
Ne me quitte pas
Ne me quitte pas

雨の降らない国から来た涙の真珠を、

ぼくはきみに捧げよう。

きみのからだを金とひかりで覆うために、

自分が死んでも大地を掘り続けるつもりだ。

ぼくがつくりあげる土地では、

愛が王、

愛が法。

そうして、きみが女王。

だから、別れないでくれ。

別れないでくれ。

別れないでくれ。

別れないでくれ。


Ne me quitte pas
Je t'inventerai
Des mots insensés
Que tu comprendras
Je te parlerai
De ces amants là
Qui ont vu deux fois
Leurs coeurs s'embraser
Je te raconterai
L'histoire de ce roi
Mort de n'avoir pas
Pu te rencontrer
Ne me quitte pas
Ne me quitte pas
Ne me quitte pas
Ne me quitte pas

別れないでくれ。

常軌を逸したことばを、

でも、きみがわかることばを、

ぼくはきみのために発明するから。

ふたたび心が燃え上がるのを経験した

恋人たちのことを、

きみに話してあげるから。

きみに会えないがために死んだ王様の話を

してあげるから。

だから、別れないでくれ。

別れないでくれ。

別れないでくれ。

別れないでくれ。


On a vu souvent
Rejaillir le feu
D'un ancien volcan
Qu'on croyait trop vieux
Il est paraît-il
Des terres brûlées
Donnant plus de blé
Qu'un meilleur avril
Et quand vient le soir
Pour qu'un ciel flamboie
Le rouge et le noir
Ne s'épousent-ils pas
Ne me quitte pas
Ne me quitte pas
Ne me quitte pas
Ne me quitte pas

古すぎると思っていた火山が

噴火することだって、

ときどきあるじゃないか。

焼けた土地が、

最良の四月よりも

小麦を実らせることがあるそうだし。

夕方には燃え上がる空のために、

赤と黒が

まじわり合うじゃないか。

だから、別れないでくれ。

別れないでくれ。

別れないでくれ。

別れないでくれ。


Ne me quitte pas
Je ne vais plus pleurer
Je ne vais plus parler
Je me cacherai là
A te regarder
Danser et sourire
Et à t'écouter
Chanter et puis rire
Laisse-moi devenir
L'ombre de ton ombre
L'ombre de ta main
L'ombre de ton chien
Ne me quitte pas
Ne me quitte pas
Ne me quitte pas
Ne me quitte pas

 

別れないでくれ。

ぼくはもう泣かないから。

もう話さないから。

もう姿を現さないから。

そうして、きみのことを見つめ続けるから。

きみが踊るのを、微笑むのを。

きみが歌うのを、笑うのを聞き続けるから。

きみの影の影になるのを許してくれ。

きみの手の影に。

きみの犬の影に。

だから、別れないでくれ。

別れないでくれ。

別れないでくれ。

別れないでくれ。

 




2026年10月21日水曜日

リュックのポケットの青空色


 

 

そんなに

まだ

遅くなってない夜

 

駅の改札口近く

 

ぼくの前を

女の子が歩いていて

リュックをしょっていて

たぶん小学校高学年の子で

リュックはピンクで

ちょっとモフモフ感のある布製で

外側にポケットがみっつ付いていて

下側に並ぶ小さいふたつのポケットは

淡い青空色してて

よく見ると

上についている把手は

虹色になっていて

 

あ

このリュック

空を意識して作っているんだぁ

と

わかった

 

わかったが

なんで

全体はピンクにしてるのかな?

と

ちょっと

謎

 

と見る間に

改札口を抜けた女の子は

急に腕を振ると

駅の前の横断舗道を

駆けていった

 

向こう側には

お父さん

 

待っていたのね

 

ふたり並んで

いっしょに帰る

の

ね

 

離れていってしまった

ピンクのリュック

 

ついてるポケットの青空色も

いって

しまった

 

把手の虹も

行ってしまった

 

さようなら

青空色

 

さようなら

把手の虹

 

 


2026年10月16日金曜日

現世の生命、ほんの遊びごと


 

 

生き方の秘訣は

つねに

たくさんの人間が同じように動いていく流れの

裏を搔くことにある

 

わざわざ人の流れを止めようとしたり

変えようとしたりする必要はないが

流れに時には沿いながら

しかし十分離れながら

流れからエネルギーだけを取り込み

流れには取り込まれず

流れの粒子となっている人々の無能や過ちを

精妙に見抜くことだ

 

大声で叫び

呼びかけ

粗雑な単語を連呼する者たちは

ただ

利用すること

 

ちょっと注目を浴びさせ

儲けさせ

舞台で踊らせて

しばらくしたら

奈落に落す

 

いや

わざわざ落すのではないが

勝手に落ちていく時に

手は差し伸べない

 

そうして

呼びかけに応じて

群れてはしゃいでみたり

デモ行進をしたり

旗を振ったり

投石してみたりする者たちには

そうねえ

mRNAワクチンの

さらに毒性の強いのを

うまくだまして

打つといいよ

どんな病気にもならないんだってさ

アタマもよくなるってさ

市民の義務だってさ

などと勧めて

何十回も打たせて

フェイドアウトしていってもらう

 

ま

これって

DSのやり口だったんだけどね

 

やはり

間引きすべき者たちが

多すぎるんだ

 

黙って

静かに座って

目を一日中つぶっているとか

静かに

一歩一歩

大事に

水辺を歩いてみるとか

 

どうして

そういうことが

できないんだろう?

 

そんな態度を選ぶだけで

すべては

解決するというのに

 

近ごろはやりの

みんな大好きの『コーラン』にも

こう書いてあるぞよ

 

現世の生命、ほんの遊びごと。

ただ束の間のたわむれにすぎぬ。

終(つい)の住処のほうが

神を懼れる人々にとっては

どれほど有難いことか。

これ、汝ら、

これくらいのことがわからないのか。

 

家畜(メッカ啓示)32

 

 

 


2026年10月15日木曜日

東京は永遠の晴れです


 

 

故郷は長崎

秋

墓参りに行ってきます……

 

と

しばらく休んでいた人が帰ってきて

手渡してくれた

お土産のお菓子〈長崎物語〉を

人もまばらな列車の中で

ちょっと

食べる

 

お茶でもあればいいが

ないので

水だけ

時々飲みながら

 

クリームの多い

ちょっとバームクーヘンに似た味わいの

筒状のお菓子を

夕暮れ

せつない雲のたなびく空の

暗くなっていく

さまを

見ながら

 

さがし さがしもとめて

ひとり ひとりさまよえば

 

という

「長崎は今日も雨だった」*という歌の

歌詞が

(なんと紋切り型に! なんと通俗に!)

ふと

蘇ってくる

 

行けど せつない

石だたみ

 

あゝゝゝ

長崎は今日も雨だった

 

と

続いていく

有名な歌詞を記憶は追っていきながら

 

ほんとうは

なにを

さがしもとめて

ひとり

さまよっているのか

ひとは

ひとびとは

 

と

記憶のはずれを

思いは

ちょっと

走る

 

きょう

東京は晴れですよ

 

東京は晴れです

 

さがし さがしもとめて

ひとり ひとりさまよえば

 

行けど せつない

石だたみ

 

あゝゝゝ

長崎は今日も雨だった

 

雨が

降ったとしても

晴れ

 

東京は永遠の晴れです

 

 

 

 

内山田 洋とクール・ファイブ「長崎は今日も雨だった」OFFICIAL Lyric Video

https://www.youtube.com/watch?v=EKQfa2MpvOc