おおかた
梅の花も終わったというのに
まだまだ満開で
桜か?
と思わせられるほど
白く
みごとに花々をつけている梅もあって
芳香
馥郁として
立ち止まらせられる
そんな梅に
ゆくりなく出会い
香りを愉しんで
しばらく行ってみると
べつの香りが漂っていて
あたりを見ると
低木の花々が並んでいた
クチナシか?
と一瞬思ったが
季節が違うし
花も異なっているので
ああ
あれだ
と名前を思い出そうとしながら
忘れる
というより
音や文字が記憶の出口ですこし混乱して
ジンチョウゲ
という名の浮かんでくるまで
すこし
時間がかかった
この
ジンチョウゲ
という名
さて
どんなものだろう?
ずっと思ってきたが
どこか爺むさい
埃じみた
古色蒼然たる響きで
漢字表記の「沈丁花」を見ても
あまりこの花に
ふさわしくもない感じがする
沈香の香りに似ている
とか
そこに丁子(クローブ)の香りが混ざったような
とか
そんなところから作られた
日本人お得意の短縮語や略語で
今の世のスマホや
パソコンや
タイパや
サブスクや
ソシャゲや
エンタメや
ファミレスなどなどと
作りはおなじ
よほど中国名の
瑞香
七里香
千里香
などのほうが
すてきに響くが
Daphne odora (ダフネの香り)という学名が
ギリシャ神話のニンフの
ダフネに
ちなんでいるのも
すてき
ダフネといえば
月桂樹を意味するが
これには
かなしいような
こっけいなような
ギリシャ神話の話が絡まる
芸能や芸術の神で
光明の神
羊飼いの守護神
遠矢の神
疫病の神にして治療の神
さらには預言の神であるアポロンに
弓矢で遊んでいたところをバカにされたエロスは
ひとを恋するようになる金の矢で
アポロンを
恋してくるひとをうとむようになる鉛の矢で
ダフネを射た
最悪最強のストーカーよろしく
ダフネを追いまわし続けるアポロンは
とうとうペーネイオス河までダフネを追いつめたが
ダフネは父である河の神に懇願し
姿を月桂樹に変えてもらった
アポロンの嘆きは
はなはだしく
せめて私の聖樹になっておくれ
とダフネに頼み
以後はダフネへの永遠の愛のあかしとして
その樹の葉で月桂冠を作って
ずっと
かぶることにしたのだそうな
もしダフネが
あのジンチョウゲの香りを発していたのなら
アポロンならずとも
ダフネを追いまわす恋ぐるいに
だれであれ
なってしまったかもしれないと
想像を遊ばせながら
ジンチョウゲの咲きならぶ春の小道を
ことさらに歩調を落して
ゆっくりと行くのも
すこし薄寒さの残る頃の
春の愉しみ