2026年2月23日月曜日

浜に積み上げた角砂糖の城

 

  

ちょっとでも

「自分」の外のなにかに

だれかに

頼ってきた者は

時間の経過がもたらす分解作用の

根源的な破壊力で

浜に積み上げた角砂糖の城のように

溶解していく

 

この溶解は

異常でもなく悲惨でもなく

なにか必要があって

きみが胃に流し込んだ錠剤が溶けていくのと

まったく同じだが

その時の錠剤の「自分」があげる悲鳴を

きみは聞くだろうか

 

「自分」の外のなにかや

だれかは

時間によって作られている


たえず変化させるのが時間のつとめなので

いまきみを支えている

外のなにかや

だれかは

明日にはない


もちろん

数年後にも

数十年後にも

ない

 






この世のふつうから逸れよ

 

  

 

この世のふつうを信じて生きれば

異常がふつうとされているこの世だから

たましいの底まで毒液を行き渡らせられ

きみはやがて異常な衰えかたを辿り

異常な死体となって異常に弔われていく

 

ごく些細なことについてさえ

この世のふつうから逸れよ

 

大声で特定単語の連呼される場に群れる者たちや

添加物や着色料や漂白剤を摂取することの好きな者たち

マイクロプラスチックに肺胞を埋められて

痴呆化を進める映像や雑音で時間を埋める者たち

他人の作った管理養豚場のゲームやパークに

日々進んで意識を埋没させてサルコペニアしていく者たち

かれらの吐く気体の圏域から逸れよ

逸れ切れないのならば

かれらの吐く気体を無毒化する強力な術を

心身を総動員して稼働させよ

 

音には無音で

しかし時にはべつの周波数の音で

精神のノイズキャンセリング機構を発動して

あらゆる場に無の神を顕現させよ

 

かたち

光景

風景に対しては

視線で

凝視で

または無視で

または非焦点化で

この世のふつうという異常を

粉砕し

溶解せよ

 

躊躇なく

すべてを無力化せよ







放っておいたきみだから

 

 

 

ガザでのあれだけの殺戮を放っておいたきみだから

この先きみをどんな理不尽な悲惨が見舞おうと

他人にも世界にもきみはなにも要求などできない

放っておくだけのひとだと宇宙はきみを記録したから

カエサルのものはカエサルにという理屈どおり

放っておいたひとはさらに手厚く放っておかれる







風の吹き込む部屋のレースカーテンに投影した映像

 

 


 

幸福も不幸も言語でできている

それらは感情でさえなく

心の視神経のあやでしかない

 

言語の選択と配列替えで心は根本から変貌する

心の消滅も可能となる

簡易な室内装飾として白い壁にいかようにも貼り替えられる

さまざまな色のポスターのように

心は短期的な飾りとすることもできる

 

言語は思念そのものであり

言語の選択と配列を行う思念部分は

思念2と仮称すべきメタ思念である

 

思念はすべて過去だが

思念と言語の組み替えによって

過去になかったものを精神空中に噴出させうる場合がある

それの理解には

核分裂や核融合のイメージがよいかもしれないが

もっと地味な物理学的現象のほうがよいかもしれない

 

さらに進もう

 

個々人の世界認識も言語だけでできている

「自分」も言語でしかなく

その「自分」がいる現在環境の把握も言語でしかない

 

言語はつねに

眼球内の液体のようなものでしかないので

「自分」も現在環境把握も

風の吹き込む部屋のレースカーテンに投影した映像でしかない






風がつよい

 

 

 

雨が降っていたようだ

雨が降っていたようだが止んだようだ

 

風がつよい

 

雲が所有されたがっている

 

都会の道路に落ちた雨粒が雲に戻っていくには

だいぶ時間がかかるだろう

 

どこまでも

えんえんと白塗りされた道路が

見てみたい

 

その上を走っていく風が

はるか遠い砂漠の宿屋の看板を九時間後に揺らす瞬間を

見てみたい

 

白塗りされた道路に立って

だれも来ず

なにも起こらないのを

ずっと

感じ続けたい

 

夕暮れから夜に入っていく頃には

星が

ほんとうに事件だと

わかるだろう

 

やや

強すぎて

鮮烈だった太陽が

すっかり夜になってしまえば

バーで

ちょっと暗い顔をして

どんな酒だか

ゆっくり飲んでいたりも

する

 

風がつよい

 

ひとりだけで生きていけそうなほど

つよい

 





物質は裏切らない

 

 

 

踊れるひとは

ちょっとゆるやかめに

踊っているのが

いい

 

踊れないひとは

踊らなくてもいいから

腕をまわりで振ったり回したりして

まわりの気の

手ざわりを

つかみざわりを

確かめ

つかのまでも頼れるとっかかりや

足場のようなものに

しておくといい

 

揺れ続けても

立っていられるほどの

体幹と

足腰のちからが

必要になる

 

物質的なたましいを持つ必要がある

 

物質を侮るな

 

物質は裏切らない

 

 

 



耐えられないと言いながら

 

 

 

 

これまでの「じぶん」が終わっていくところだな

つよく感じる

 

中から押し上げてくるものに押されて

裂けて

こなごなに飛び散っていく

であろう

気が

している

 

そんな気がしながら

「人界」というものの残虐で醜悪な全容を見続けようと努めている

 

この「人界」が「じぶん」なのだ

 

どんな花々も

春のあたたかさや

うららかさも

裂けて

こなごなに飛び散っていく

予感を

抑えることはできない

だろう

わかっている

 

あわれなことよ

かわいそうなことよ

悲惨なことよ

 

あらかじめ

詠嘆句を発音してしまっておきたい

 

たぶん

耐えられないひとがほとんどだろう

 

それでも

耐えられない

耐えられない

と言いながら耐えていく

 

えんえんと

見渡すかぎり

ものが壊れ尽くしたところに

咲き出る花を

きれいだと思いながら

耐えていく

 

耐えられない

耐えられない

言いながら