2026年5月10日日曜日

ただ夏があり

 

 


5月5日が立夏だったので

いま

日本はもう夏

 

夏に入った

思うと

それだけで

うれしくなる

 

幼かったころ

すごく若かったころ

立夏

ということは

あまり

意識しなかったけれど

5月は楽しかった

季節がかってに楽しげに振舞いだし

3月末や4月のような

春先の不安定さがグッと減って

5月というだけで

楽しかった

 

楽しい

というのに

学校だの

社会のあれこれだのは

ずるずるとあり続けたので

いつもそこが

残念だった

 

せっかく

5月がうきうき招くのに

せっかく

夏が手まねきし続けるのに

人界はいつも

つまらない枠組みを

押しつけてくるばかり

 

夏まつりが

あるじゃないか!

って?

いろいろなイベントが

準備されるじゃないか!

って?

 

古びた他人の脳が

古びた規範から編み出した

所作としきたりで参加者を縛り上げる

ああいう罠のこと

 

そんなものは

なんにもなくていい


ただ夏があり

青空を流れていく雲があり

どんどん繁茂していく雑草があり

虫がつぎつぎ出てきて

野良猫もどこかの犬も顔を出し

鳥たちはパン屑を狙って集まり

蛇もトカゲも

日当たりの中を滑っていき

小さな川も大きな川も

いつでも釣りに来いよと誘っている

 

そんな5月であるだけで

いい

そんな夏があるだけで

いい

 

 


楽しいことばかり

 

 


正直なところ

楽しいことばかり

 

どうして

この世を厭うひとがいるのか

わからない

 

見えるもの

感じるもの

聞こえるもの

すべて

楽しいことばかり

 

なにひとつ

みずからを慰撫するため

じぶんで作り出したものなど

ない

 

のぼってくる時の陽も

沈んでいく太陽も

あがったり下がったりする気温も

吹いてくる風も

そう、ちょっと強すぎる感じで

吹き来る風さえも

とてもじぶんの細工ではできない

無償の賜りもの

 

睡眠が足りない時のボーッとする頭も

重いものを持って歩き過ぎた時の

背にすこし来る疲れも

おもしろい仕組みになっているなあと

楽しくてたまらない

 

そりゃあ人界を見れば

わがままに乱暴なことをやってやがる

という事例は

枚挙に暇もないが

人間というものの価値づけを

徹底して低くとっておけば

戸外に歩きに出た際に

昨日もきょうも切り裂きジャックされないで

済んでよかった

みんながみんな人殺しってわけでも

この世はないようだわい

などと思っておけば

それだけのこと

 

正直なところ

楽しいことばかり

 

爆撃したり

虐殺をしたりする連中は

いつ

二倍も三倍もの

とんでもない規模のお返しを受けて

ソドムになったり

ゴモラになったり

するだろう?

と想像たくましくして

ああ

楽しいことばかり

 

どうして

この世を厭うひとがいるのか

わからない

 

大金持ちで

巨大な邸宅や別荘をいくつも持って

マーラーゴふう美女を

妻にしたり娘に持ったりしても

もはや魅力のかけらもない

鈍くさいセイウチのからだを動かして

権力を掌握しているふりを

かなしくも健気に続けなければならない

あの面倒臭さでは

ゆっくりプルーストに浸ることもできまい

ボードレールの詩の難しいところを

熟読玩味し直す気力体力も

どうにも保てまい

『神々の黄昏』全曲を

しっかり聴き直そうという根気も

なかなか引き出して来れまい

素粒子論の理解を進めるために

数学の不得意なところを

学び直そうとなど挑戦もできまい

もちろん

日本語で『源氏物語』を再読する暇もなかろうし

『太平記』をしっかり読了もできまいし

面白すぎる『宇治拾遺物語』を

つらつらつらと読みふけることも

できまい

できまい

 

ああ

楽しいことばかり

 

 

 

2026年5月9日土曜日

それはそれは美しい光景

 

 


死の二日前に

マサヒコは

めったに見ないような夢を見た

 

そのことを

妻レイコに語った

 

見たこともないようなきれいな場所で

美しい花が

遠くまで

咲き広がっていた

 

(「美しい」という語彙は

マサヒコの日常会話にはない

せいぜい「きれい」が使用されるまでで

「美しい」という日本語を使うことは

恥ずかしくてできなかった

はずだ)

 

めったに見ない

というより

「こんな夢は見たことがない」

妻に語った

 

霊能者の笹原留似子が

手術中に死にかけた際に見た

いわゆる

三途の川周辺の光景を

語っている

https://www.youtube.com/watch?v=SvWu6V37_kc

 

それはそれは美しい光景

だと

笹原留似子は言う

 

「そっちに魅了されて

夢中です」

 

「お花畑がひろがっていて

蝶とか鳥が飛んでいて

川のせせらぎが…

こんな細い川が流れていて…

またげます

またぎかけました」

 

三途の川

というものが

大きな川なのではなく

ひとまたぎできるほどの

細い小川であるのが

笹原留似子の体験談では

おもしろい

 

またいで

川の向こう側に

足をついてしまえば

戻っては

来れないらしい

 

見たこともないような

美しい風景に魅了されて

川をまたいで

足を向こう側に着地させて

マサヒコは

戻ってこなかったのだろう

 

「お花畑がひろがっていて

蝶とか鳥が飛んでいて

川のせせらぎが…

こんな細い川が流れていて…」

 

戻ってこないのが

当たり前だろう

 

美しい風景に魅了されて

そちらへと向かうこと

こそ

なすべきこと

から





宇宙のはじまり


 

 

 

写真を見る。

 

じぶんが撮った古い一枚。

 

家族の間に残ってきた

さらに古い

たくさんの写真。

 

SNSやXやFacebookで流れてくる

未知の人の手になる

プロ並みに美しくたくみに撮られて

膨大な量の写真。

 

過去の一瞬。

ある姿

ある表情

ある角度からの

記録。

 

しかし

それらは

記録であるばかりでなく

宇宙の

創造の起点でもある。

 

あらゆる創作物も

人工物も

同じ。

 

さらには

あらゆる物の

偶然の置かれ方

配置も

同じ。

 

どれもこれも

宇宙の

創造の起点。

 

そこに

なんでもいいが

それがある

なにかがある

という

こと

宇宙のはじまり。

 





だれがコック・ロビンを殺したの?



 

 

 

       決して戻って来させないで
      血と憎しみの時代
      私には愛する人がいるのだもの
      ゲッティンゲンには ゲッティンゲンには

      空襲警報が鳴り渡ったりして
      また武器を取らなきゃならなくなったりでもしたら
      わたしの心は涙をひと粒流すと思う
      ゲッティンゲンのために ゲッティンゲンのために

 

                      バルバラ 『ゲッティンゲン』

 

 

O faites que jamais ne revienne 
Le temps du sang et de la haine
Car il y a des gens que j'aime
À Göttingen, à Göttingen
  
Et lorsque sonnerait l'alarme
S'il fallait reprendre les armes
Mon cœur verserait une larme
Pour Göttingen, pour Göttingen

              Barbara 《Göttingen》  

 

 

 

https://www.youtube.com/watch?v=s9b6E4MnCWk


https://www.youtube.com/watch?v=Z2TDacy7MIY

 

 

 

 

 

 

Xを見ていたら

InfoGramさんがこう書いていた

 

 

Who started the war?

 TRUMP

 

Who bombed Iran?

 TRUMP

 

Who caused the Strait closure?

 TRUMP

 

Who fucked U.S. economy?

 TRUMP

 

Who declares victory?

 TRUMP

 

Who started Project blockade? 

 TRUMP

 

Who started Project Freedom?

 TRUMP🤣

 

Elect a clown, expect a circus.


https://x.com/i/status/2052102199438938229

 

 

 

こりゃあ

マザーグースのノリだなあ

あの「だれがコック・ロビンを殺したの?」

なんかの

 

あれを思い出して

替え歌したくなった

 

 

だれがコック・ロビンを殺したの?
トランプさ、とスズメが言った
トランプの弓と矢で
トランプがコック・ロビンを殺した

 

コック・ロビンが死ぬのをだれが見たの?
「世界の分断された個々人たち」さ、とハエが言った
「世界の分断された個々人たち」が小さな目で
ロビンの死ぬのを見た

 

だれがコック・ロビンの血を受けたの?
「人類の希望(とか言われがちだったもの)」よ、と魚が言った
「人類の希望(とか言われがちだったもの)」が小さな皿で
コック・ロビンの血を受けとめた

 

だれが白衣を仕立てるの?

「絶えぬ悲しみを耐えるだけの心」よ、とカブトムシが言った

「絶えぬ悲しみを耐えるだけの心」の針と糸で

「絶えぬ悲しみを耐えるだけの心」が白衣を仕立てるでしょう

 

だれがお墓を掘るの?

「人類の友である苦悶と憂鬱と絶望」よ、とフクロウが言った

「人類の友である苦悶と憂鬱と絶望」がつるはしとシャベルで

コック・ロビンの墓を掘るでしょう

 

だれが牧師になるの?

「ありもしないのにあるふりをされがちな慰め」よ、

とミヤマガラスが言った

空虚な慰めことばで埋まった小さなご本を使って

わたしが牧師になりかわって手慣れた慰め演技をしましょう

 

だれが世話役になるの?
「なにがあろうと進行する日夜のくりかえし」よ、とヒバリが言った
夜でなく昼間で明るかったならば
わたしも世話役の補助をしてあげましょう

 

だれが松明を持つの?
「人類の夢(とかなんとか…)」よ、とベニヒワが言った
「夢(とかなんとか…)」だけなら軽いし

人生経験のない子らが持つのも簡単
まさに夢のように浮ついた「夢(とかなんとか…)」を松明にしましょう

 

だれが喪主になるの?
「この世の宿命や運命」よ、とハトが言った
どんな王・権力者・成功者・賢者をも手中に操る「宿命と運命」が
コック・ロビンの弔いの喪主になるでしょう

 

だれが棺を運ぶの?
「生きとし生けるもの皆の最後の友である死」よ、トンビが言った
生前のどんな偽りの友もできないほど果ての果てまで
死こそが棺を運んでくれるでしょう

 

だれが棺の覆いを持つの?
「なにもかもが終息していく先の全き虚無」よ、とミソサザイ
どんな活動も業績も喜びも愉しみも友情も愛も
ただそのブラックホールへ向かうばかりの虚無よ

 

だれが賛美歌を歌うの?
「生老病死」に「四苦八苦」よ、とウタツグミ
かつてブッダがえんえんとこれらについて歌った
お粗末ながらも今度はわたしが歌い継いでみましょう

 

だれが鐘を鳴らすの?
「まだ自分は老病死とは縁がないと思い込んでいる愚者」よ、

と雄牛が言った
明日あさってにも脳出血や心停止で死ぬかもしれないのに
今は元気に「コック・ロビンよ、お別れだ」と精を出す

 

そら飛ぶ鳥らは一羽残らず
ため息をついてすすり泣いた
トランプが殺した哀れなコック・ロビンの
死を悼む鐘が鳴ったとき

 

 

いちおう

マザーグースの歌の原文を

引いておこう

これは

替え歌にしない

ままで

 

 

Who killed Cock Robin

 

Who killed Cock Robin?
I, said the Sparrow,
with my bow and arrow,
I killed Cock Robin.

 

Who saw him die?
I, said the Fly,
with my little eye,
I saw him die.

 

Who caught his blood?
I, said the Fish,
with my little dish,
I caught his blood.

 

Who’ll make the shroud?
I, said the Beetle,
with my thread and needle,
I’ll make the shroud.

 

Who’ll dig his grave?
I, said the Owl,
with my pick and shovel,
I’ll dig his grave.

 

Who’ll be the parson?
I, said the Rook,
with my little book,
I’ll be the parson.

 

Who’ll be the clerk?
I, said the Lark,
if it’s not in the dark,
I’ll be the clerk.

 

Who’ll carry the link?
I, said the Linnet,
I’ll fetch it in a minute,
I’ll carry the link.

 

Who’ll be chief mourner?
I, said the Dove,
I mourn for my love,
I’ll be chief mourner.

 

Who’ll carry the coffin?
I, said the Kite,
if it’s not through the night,
I’ll carry the coffin.

 

Who’ll bear the pall?
We, said the Wren,
both the cock and the hen,
We’ll bear the pall.

 

Who’ll sing a psalm?
I, said the Thrush,
as she sat on a bush,
I’ll sing a psalm.

 

Who’ll toll the bell?
I said the bull,
because I can pull,
I’ll toll the bell.

 

All the birds of the air
fell a-sighing and a-sobbing,
when they heard the bell toll
for poor Cock Robin.







せっかく同じ場所で互いに見つめあったというのに


 

 

 

ドルジェル伯爵夫人の場合のような心の動き方は

時代遅れになってしまったのだろうか?

レイモン・ラディゲ 『ドルジェル伯爵の舞踏会』

 

Les mouvements d’un coeur

comme celui de la comtesse d’Orgel

sont-ils surannés ?

Raymond Radiguet  

  « Le Bal du comte d’Orgel »

 

 

 


 

あれは

ロマン・ロランの『ジャン・クリストフ』の

どのあたりだっただろう?

 

ジャン・クリストフが列車に乗っていて

どこかの駅で停車したかした際に

となり合わせた列車にひとり女性が乗っていて

その人とのまなざしが合ったかどうかして

異様なほど惹きつけられた

一瞬に恋に落ちた

といったような描写があった

 

列車どうし別の方向へ走り出すわけで

しかも窓を開ける暇もなく

なにか告げたくても時間もなく

かりに窓ぎわで手を振って注意を引こうとしても

おかしく思われてしまうだけだろう

 

しかし相手はこの世で唯一

もっとも自分に大切な人であるように感じられ

最大の理解者どうしであるように思われ

精神的も同じ世界から来たかのように感じられる

 

双方の列車は逆方向に走り出し

名も住まいも連絡先も交換できぬままに

そのわずかの時間のあいだ

せっかく同じ場所で互いに見つめあったというのに

ふたりはまた永遠に分れていってしまう

 

ロマン・ロランはここまでは書き込んでおらず

なにしろ読んだのが12歳から16歳ぐらいの間のことゆえ

状況設定もすこし異なっていたかもしれないが

いまでも鮮烈な印象として残っている

『ジャン・クリストフ』のたいていの部分の記憶は

すっかり忘却のかなたに薄れていってしまっているが

となり合わせた列車の窓からすぐそこに見える

今生ではついに真に出会うことのできないもっとも重要な存在

というイメージは

青年読者には強烈なロマンティシズムを抱かせた

ロマン・ロランも『ジャン・クリストフ』も

この一点だけでも心の灯となった

 

かつては多くの青少年の愛読書とされたはずの

ロマン・ロランの『ジャン・クリストフ』も

1970年代には凋落傾向を見せ

主人公をあらかじめ才能豊かな人物として設定するという

ロマン・ロランの手法を批判したマルセル・プルーストの

翻訳や紹介や研究が世界的に広がりを見せるなか

1980年代にはすでに忌むべき愚作として

新しい見方好きの知識人気取りたちからは

『ジャン・クリストフ』は軽蔑や批判の対象となっていた

 

一般人を貴族主義的精神で見下す著作として

ロマン・ロランはずいぶん攻撃されたように思えるが

サン=テグジュペリなどもそうした精神の持ち主として

ずいぶんと避けられ低められたように見える

フォークナーや中上健次やカフカやラテンアメリカ文学が

さらにはケルアックやバロウズやブコウスキーなどが

激しい山火事のようにフィクション好きたちの脳を燃やした頃の

今から思い返せば古風でもある懐かしい偏見の時代であった

 

洋書売り場のフランス語書籍の棚などを見れば

サン=テグジュペリは復活してきているように見えるが

ロマン・ロランのポッシュ版やフォリオ版は売れ行きが悪いのか入手しづら

自分のことを見出されぬ天才と思い込みたがる

ふつうの青少年ならマルセルよりジャン・クリストフの心情のほうが

今昔を問わずきっと身近に感じられるだろうに

ジャン・クリストフはランスロットやパルジファルやトリスタンのように

しばらくは忘却の河を泳ぎ続ける運命であるらしい