わざと実生活を洩らさないように
詩の形式を使って嘘っぱちを書いているのだが
世の中にクラゲのように漂っていると
そんなことなど
どうでもよくなってくる
個人の思想や感情とか
内面がどうだとか
どんなにつくろったところで
地球から出ないローカルなネタだろう
ただでさえ少ない手持ちの金を
だまし取られたりするのはマァ困るけれど
それだって計測できないような
短い短い宇宙的瞬間の煩わしさに過ぎなかろう
ほんとうに世の中の慣行のような
ああだこうだ言う大げさな喚きようには
耳の穴を開く気にさえならない
自分が自分が自分がと
みんな言っているだけの波音
ざわざわ
ざっずーん
ざわざわ
ざっずーん
魔法の極意を
とうとう身に深く覚えるに到ったが
体感としてこれは
いつでもひっくり返せるぐあいに
目の奥で全宇宙を
かるく手玉に取っているようなもの
すべては目の奥にあった
脳や心などを
だれもが語りがちだったが
逸らすためだったのだ
あれは
うつくしいものに触れ
そこで留めておけばいいものを
ひとはかならず
触れたことを誇りはじめる
触れた自分を誇りはじめる
この世のことも
あの世(複数の。あまりに多量の幻想の。)のことも
もう覚えていない
ナズナの
若芽が出ていたよ
まるで春風のような(そろそろ
春、などという蒙昧な呼称もやめて
定義をし直そう、詩直そう、…)
大気の圧力落差を埋めようとする動きが
若芽たちを揺すっていきます
地の揺れまで駆けつけて
来る
来る
たしかな予感
大宇宙(という、あゝ、これもまた、
なんと曖昧すぎる呼称、…)に
やり直しのきかないことなんてないのだから
ひとつぐらい
地球(と黴のようなちっぽけな移動性生物に
ある時期から呼ばれ続けてきた星)が
永遠のねむりに就いたところで
だぁれも
困りもしない…
嘆きもしない…
こんな不確かな星に
すっかり感情を捨てに下りてきた来たぼくら
若芽だったのは
大むかしだけでなく
いまだってそうだったかもしれない
若芽のぼくら
若芽のぼくら
このナズナのように
この世のことも
あの世(複数の。あまりに多量の幻想の。)のことも
もう覚えていないよぉ
と
さわやかに
なんの役にもたたぬ摘まれ方を
いよいよ
していこうよ
そんな否定の口ぶりでは
雑居ビルの棲み心地のよさもばれてしまう
くれぐれも
街路樹の電飾は手を抜かぬようにし
油はむしろ切らしたままで
欲情の柑橘類を
ひとつとして捥がれぬことだ
生きていないものこそ歩く
土が
なかなか死骸に
触れられないように
冷たいところが
たいそう好まれる時代が過ぎれば
きれいなままのスプーンが
タンポポの姿見ともなる
王になり損ねた死骸が
美男子のまま
自らを包装している音らしい
このさびしい世に
ほんとうにひとりぼっちになって
まだ与えられている
じぶんのからだや
きぶんと
向きあっている
なにをしても
しなくても
刻一刻と
時間が過ぎていく
滝壺に
近づくのに似て
家族とか
会社とか
サークルとか
あるいは国家とか
時代とか
そんな屋形船に乗りあわせて
わあわあ言いながら
どどっと
まとまって落ちていくほうが
さびしくない?
夜明け前に目覚めると
そんな思いが
消しても消しても
浮んでくる
部屋の薄やみに目を開くと
いつも思う
これは死んでいるということ
死んでいるのと
もう
おなじこと
にぎやかにしている人たちも
世の中心にあるかのような人たちも
数年後にはいない
つぎつぎ宴は続くが
つぎつぎ終わっていく
なにもかも消え去っていき
そんなことがあったと
覚えている人さえいなくなる
むかしのパーティーを
ともに語り草にできる人たちも
もういない
あんなに手間をかけた
いくつもの結婚式も
もう陳腐なドラマのような
型通りのイメージさえ残さない
参列者たちは
散りぢりばらばら
写真や映像が残っていても
見る人たちさえ
すでに消えてしまった
すべての家族写真や
思い出の品々
大事に選んで買った調度までが
ご主人さまや
鑑賞者たちを失って
個々人の時間の下流に滞留する
いつまでも残る骨のように
無数の人生たちの骨として
残滓として
あゝ骨になるためにだけ
生きてきたのか?
失われ忘れられ最後は
ただ不用品として
業者に引き取られていくために
立派な石の墓を建てても
最後には家系も絶え
永代供養の期限も切れて
ガサッとまとめられ
墓地の端の遺骨集積塔の下にまじる
どこもかしこも
終わっていくものばかり
忘れられ
失われていくものばかり
かしこいかのような
人たちはたくさんいたけれども
みな時流に乗って
金儲けをしただけの人たち
じぶんをはかなく
顕示しようとした人たちばかり
すべては終わって
すみやかに過ぎ去り
すっかり忘れられていくことを
ただそれだけを不朽の土台として
いまの生を組織せよと
こころと生活を
できうるかぎり軽く
軽くせよと
言わなかった人たちばかり
そんな人たちを
まるでなにものかであったかのように
あがめ奉っている
そんな人たちばかり
陸続と発生してくるばかり
このさびしい世に
ほんとうにひとりぼっちになって
まだ与えられている
じぶんのからだや
きぶんと
向きあっている
なにをしても
しなくても
刻一刻と
時間が過ぎていく
滝壺に
近づくのに似て