2013年6月10日月曜日

いつもここが聖地


  


いつもここが聖地
じぶんのいるここが
この足の下が
いや、足の下でさえない
ここが

いっぱいの陽を感じながら
ぼくはあさく座って
足をテーブルに投げ出したりしながら
あるいは
なにかの面接でも待つように
きちんと座りなおしたりしながら
ミルクを飲んだり
真水を飲んだりする

そんな単純なことが好きで
これだけで最高に幸福だと感じている

どこかへ行かなきゃいけないと
いつも駆られている連中は哀れなものだ
ぼくはここで十分で
他へ出向いたってかまわないが
どこでもたいていは幸福だと感じる
むかしはこうじゃなかったが
人間
すこしは成長もするんだ
ここでも
あそこでも幸福ならば
ここにいればいい
単純な道理
そんな道理にしたがって
生きていられる
幸福

どこへ行ったって
そこに行けば
ここ
どこへ行ったって
幸福ならば
いつもここが聖地

じぶんのいるここが
この足の下が
いや、足の下でさえない
ここが

                                  
   


2013年6月8日土曜日

ときおりこんな語を



  

旅の比喩は
もういいだろう
列車の棚に
そのまま
置いてきても

名もわからぬ
たくさんの
若草を摘みに
出たまゝ
帰るのを忘れ
水辺に行き
町のへりを過ぎ
山の夜陰も
心細く抜けた

成長
などと
甘えた言葉は
使わない
刈り取られ
喰われるための
語だから
ひとり
刈り取られず
喰われないなら
成長はない

いちばん外に
ある意識は
人の世をどう
見るだろう
冗談さえ
発しないか
喜怒哀楽も
とうに剝れて

空の
はじまるところ
終わるところ
そのように
受けとる意識が
なおも
一所に定まらず
蠢き続けて
ときおり
こんな語を
連ねたりする

                           
   


2013年6月7日金曜日

元気か





被災地の取材に
よく東京のマスコミは
黒塗りのハイヤーで乗り込んでくるという
人や世の中を
容易に上げ下げできる言葉たちは
黒塗りの上を滑る
ひかりの艶に守られ
巨大なインテリジェントビルの中で
日々
組まれていく

伝わらなさの縁に
ふるえる
ボタンほどに小さな小石や
桜貝の薄片ほど
はかない
種子をかかえ
こわれと
くずれと
とどこおり
そのものとなった言葉たちは
元気か

ちいさな
しっとりした
新芽やつぼみを
なんども
なんどでも
生みそこなって
押し黙り
こわれと
くずれと
とどこおり
かかえ直して
また
うごめいては
押し黙り
口を渇かし
唇にひび入らし
新芽に
つぼみに
なお向かおうとする
言葉たちは
元気か







2013年6月5日水曜日

冷えたビール





冷えたビールが
宙に浮いて待っている
あそこの路上

グラスのまわりには
こまかく水滴がついて
わずかながら
歴史の過ぎゆきを
吸いとり続ける

そう、
宙に浮いているのさ

あそこに行って
だれでも掴めるのに
なぜだか
だれも手に取ろうとしない

ずっと浮いているのさ
冷えたビール
ぬるくもならないで
あそこの路地

かたわらを
通っていく人はいても
だれも手に取ろうとはしない

歴史の過ぎゆきを
吸いとり続ける
こまかな水滴のついた
グラスのまわり

宙に浮いて待っている

冷えたビール
                                  
   

2013年6月4日火曜日

六月





飲み終えた
飲み終えない
飲み終えなさを
飲み終えながらも
まだ潮を
待つ大型客船 あれに
乗って

数日後には
大洋の
さまよいびと
われら
わずかの(いくら
多くしたところでわずかの)
インクのしみに
込める思いの
多寡を
またその読みとりの
多寡を
競う児戯の
いんてりサン
(おげんきレすか
(そうレすか
美しい
小さなカラ傘
ぽっつりと
ジェラートに挿し
傘差して
こころのヴァカンス
ぽっつりと
ひとり遊びの
晴れ間の
隙の

もう六月

春でもない
夏でもない
あゝ、好きな頃あい
中途半端で
雨がちで
みんなダレがち
いい気持ち
生くるなら六月
死ぬるなら六月
六月
六月

六月

けれど
もう真新しい若葉には
会えぬ
六月

来年まで待て
あと十カ月ほど待て
濃くなるばかりの緑らに
言われている


六月


 

2013年6月2日日曜日

かくれんぼ





かくれんぼをしているんだね

きみの
背が見える

過ぎこしかたも
みんな
                                
   



ここから!ここから!





                         …ほのかなる火の匂ひする旅のはじめに
                                           安永蕗子『草炎』
    




……ひかりと
他のひかりのあいだを、
行き
続けている、…

(まるで
(ひかりでない自分
(のように

…見えるのは
ひかりに見られているから。 。。
   
           。 。。     。           。

。。       。

  。。。

―先行されている!
―いつも!

(暗いところが愛しいのは…
(暗いひかりが、愛しい、のは…

ひかりと
他のひかりのあいだを、
生き
続けている、…

生きが
続ける生きを
そとから見ているのか
この《語り手》は……、「わたし」?

…「わたし」?

ことばとことばを
なおも繋ぐ者、紡ぐ者、……
…「わたし」?

(急速に遠方に去っては
(急速に戻って来る、そんなことを
(繰り返すのを
(《詩》と呼んだのではないか、結局、だれであれ、
(旅のさなかに歩きつつ死んだ「霊」は
(…《霊》は、
(なおも歩きつつ、足もなく、身体もなく、
(歩く必要さえないのに、《歩く》に囚われ続けて、
(…あゝ、そんな必要もないのに、…

果テ、ナドト、モウ、言ワナイ、
弱カッタノダ、最期ヲ仄メカスコトデ、チカラヲ得ヨウト
シタノ、ダ、ネ、…

新鮮なみずみずしいものを、むしろ
すぐ、手もとに、置いておけば、
よかった、だけ、なのに…
(……………、弱カッタノダ、
(ネ、…

たった一個の林檎!
オレンジ!
葡萄の実や!
おゝ青梅!、黄みどりの桃!

(…、果テ、ナドト、モウ、言ワナイ、

(…、弱カッタノダ、

(…、チカラヲ得ヨウト、シタノ、ダ、ネ、…

(……ひかりと
(他のひかりのあいだを、

………ワタシハ、ガラス、…透明ノ、コノ感情ヲ、
大気ニ晒シ、水ニ漬ケ、…

流し続けている水の
細い棒が
どうやら中心だったらしい……

…時代!

…トキ、シロ!

(…そうだったのか!
(トキ、シロ!
(《時》が、束の間、宿っていただけだったのか!……

(…で、こびりつく《物語》を、そろそろ、解体し切った、
(し切れた、ろうか、…     まだ?
(囚われている?    …まだ?

(それも、代、シロ、だった?

出!
出!
出!
出!
(…出、…発、…の起源よ、

…出!

ここから!

出!
出!
出!
出!

…、果テ、ナドト、モウ、言ワナイ、
ソノ反対ノ、場所ニ来タカラ…

(行き
(続けている、…

(生き

出!
出!
出!
出!

(……ひかりと
(他のひかりのあいだを、

…、果テ、ナドト、モウ、言ワナイ、

ここから!
ここから!