2017年3月2日木曜日

おまえの自我は



そちらがふたこと三こと言ったら
こちらがふたこと三こと言うのを
まァ
黙って聞けや

そんなやりとりのルールも
わからないやつがいる

おまえのキャンバスや
スクリーンじゃないんだぜ
こっちは
感情とか考えとか思い出とか
そんな
おまえの自我は
そこらの便所で処理して来いや

そう見せつけてやらないといけない者が
やはり
いっぱいいる




ひとつの思いから次の思いへ移るあいだに


 
海外の友からは
メールひとつにも
はやくて数日
ふだんは数週間してから
返事が来る

そこの生活を知っているから
そんなものだと
受け止める

人にメールひとつ書くにも
書きたいこと
伝えるのに使いたい表現
削るべきこと
いろいろと考える

庭の草木の手入れをしながら
特に薔薇の植替えや
種蒔き時の近づく
菜園を耕したりしながら

領地を駆けまわる
猫につがいを見つけて
やるべきかと
草はらの前に立って
茶を啜って
思案を続けながら

ひとつの思いから
次の思いへ
移るあいだに
数日ほど経ってもよい
ほんとうは
数日ほど
経つべきかもしれない

そんな生き方に
ちょっと戻ったりすると
どうしたの?
とか
なに怠けているの?
とか
都会では
言われたりする



ヒト亜族ヒト属に生まれ落ちながら

  

どこの住まいにあっても
しずかな雨もようの日
すこし冷えた廊下の
暗く伸びているさまに
わたくしは恵まれてきた
だれもいない時間に
そんな廊下に立ち続けて
足裏を冷やしながら
ひとりということを
だれもいない空間を
わたくしは賞味してきた
どんなに幸せだったか
そんな時間の数々が
群生を強いられた
ヒト科ヒト亜科ヒト族
ヒト亜族ヒト属に
生まれ落ちながら
ほんの少しであれ
宿命から外れた時間を
味わえたことの喜び



ひとこまひとこま



春はやいうちの開花を控えて
つぼみを日々ふやす木々が居間の前にはある
やわらかい雨に
それらが濡らされるのは
見ていて心地よい

ちょっと暗く
しずかな小雨の一日
まるでさびしいような心もちで
わたくしはなんだか
全生涯をふり返っている

長いようで
みじかな
古い映画のような映像が
つぎつぎ
心のなかを流れていく
どれもこれも
もうわたくしとは
関係のなくなってしまった
与えられ続けだった
時のひとこま
ひとこま

けれども
わたくしの思いのなかにだけ
しまわれている
ひとこま
ひとこま



寝食を失う



経験を重ねることに
もう
興味はなくなった

たゞ
茫洋と
文字に耽り
映像に虚脱していたい

観劇でもいいようなものだが
人に興味がない
人の動きにも
発語にも
存在にも
人を目の前にすると
たゞ顔をみつめてしまう
そうして
人が解放してくれるのを待つ
時が過ぎるのを待つ

老いだろうか
老いでも
いい

読み
見ることに
深く引き込まれて
寝食を失うという時間を
どうやら
取り戻そうとしている



2017年3月1日水曜日

ほんのちょっとだけ蘇らせるため



二十年ほども前の
流行り歌

鼻唄している

失われた時間たち
逝った人びとを
ほんのちょっとだけ
蘇らせるため

好きでもない
ちょっと
反発さえしていた
流行り歌

今ごろ
たったひとり
生き残って

鼻唄している

あの頃の
陽光のきらめき
波のひかり
街中の雑踏
ほんのちょっとだけ
蘇らせるため

今ごろ
たったひとり
生き残って

陽光のきらめき
波のひかり
街中の雑踏

あの頃

ほんのちょっとだけ
蘇らせるため




詩のページを開いていたことがあった



夜も更けると
闇というより黒に飲み込まれて

周囲は
田畑
小川の音

酒はないので
井戸から汲んだ水を飲みながら
いくつか
詩集を繙いている

今にして
気づくようなのだ

詩は
つぎつぎ読み終えていくものでなく
どんな小さくても
眩しい光源を間近で見つめ続けたりしないように
凝視し続けるものでもない
数行追ったら
本を膝に下して
つまらないような昔の小さなことを思い出したり
部屋の壁の角のほうの蔭を見たり
そうして
またはじめから
行を追い直したりして
結局
小一時間しても
一編も読み終えた気になれなかったり
すべきものなのだ

人生はなんという急流
言葉は
そうして
なんという美しい小石の数々

今にして
気づくようなのだ

急流のなかで
なんども
詩のページを開いていたことがあった
たぶん
ろくに読めたともいえないが
読もうとしたり
読めなく感じたり
もう誰の物語とも知れないような
過去の自分の時間のあれこれに
川の岩を飛び飛びするように
思いは
戻っていってしまっていたり

ともかくも
詩のページを開いていたことがあった
そんなことの好きな人生だった
ページを開くことで
なにかに取っかかりを得ようとしたのか
引っかかりを求めたのか
それとも
たんに文字が好きだったのか
文字が思いの中に作り出す
とりどりの意味あいの万華鏡が好きだったのか

今にして
気づくようなのだ

詩のページはたゞ開くべきもので
開いていればいいので
開いたり
閉じたりすればいいので
読んだの
読まなかったの
わかったの
わからなかったの
そんなこと
どうでもよかったのだと

人生はなんという急流
言葉は
そうして
なんという美しい小石の数々