汗ばむ
というより
ひっきりなしに汗が出てくるような暑さ
を言うには
溽暑
という言葉がいいような
気がする
これを使って
柳宗元は
夏の暑さを歌った
南国の永州の溽暑は
酒にでも酔うよう
すこしでも涼しくしようと北側の窓をあけ
机に寄りかかって熟睡する
ひとり目覚めると
真昼だ
物音もせず
ひっそりとしている
竹林のむこうで
山の子の
茶臼を敲く音だけが
している
夏晝偶作 柳宗元
南州溽暑醉如酒
隱几熟眠開北牖
日午獨覺無餘聲
山童隔竹敲茶臼
南州の溽暑 醉うて酒の如し
几に隱りて熟眠し 北牖を開く
日午 獨り覺めて 餘聲無し
山童 竹を隔てて 茶臼を敲く
『礼記』月令・季夏に
「土潤い、溽暑にして、大雨時に行く」
とある
六月の梅雨頃のことを言っているようなので
もっと蒸し暑い時には
さらにふさわしい言葉が
中国には
あるかもしれない
さて
「茶臼を敲く」とは
なにか?
『茶経』巻三「造」などによれば
当時の茶の製法や飲み方は
次のようなものだったらしい
茶の葉を摘んで
それを蒸し
臼の中に入れて杵で搗き
搗き終わると
鉄製の型に入れて拍ち固め
それを乾燥させて
貯蔵する
この時点で
茶は固形になるが
これが唐代の代表的な餅茶で
飲む際には
これを碾(うす)で粉砕し
羅(うすぎぬ)でふるいにかけ
茶入れに入れる
沸いた湯に
この茶を入れて
塩などの調味料を加え
竹筴でかき混ぜて飲んだ
こういうものだとすると
「茶臼を敲く」とは
蒸した茶葉を臼の中に入れて
杵で搗いている段階にあたるだろう
明の文人の謝肇淛(しゃちょうせい)は
「唐人、茶を煮るに多く薑(きょう)、塩を用う。
味、いずくんぞ佳なるを得ん」
と書いている
薑とは「はじかみ」のことで
生姜にあたる
茶のもともとの話に寄り道しておくと
中国の飲茶でさえも
唐の第九代皇帝玄宗の時になって
はじめて大流行したに過ぎない
泰山の霊厳寺で禅を隆盛させた降魔師は
きびしい禅修行を勧め
睡眠も禁止なら夕食も禁止したが
茶を飲むことだけは許した
空腹を紛らし
眠けを散らすためだろうが
行者たちはいつでも茶を携え
いたるところで飲むようにしたので
これが次第に民衆にもひろまり
長安では世界初の喫茶店が誕生していった
「茶坊」「茶荘」と呼んだのらしい
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