2020年4月22日水曜日

せんべい



ぼくは老人なので
せんべい
買っちゃった
百二十六歳ったら
そこそこ
りっぱな老人なので
せんべい
買っちゃった
こどものころは
好きじゃなかった
せんべい
しかたなく食べた
せんべい
買っちゃった
うちに帰ったら
九十八歳の娘ゆり子と
八十九歳の息子蒼太と
食べようか 
どうしようか
せんべい
買っちゃって
迷っちゃって
ひとりじめ
やっぱりしちゃいたい
せんべい



コロナさまさま


  
人に会わぬが大好きなので
コロナさまさま

閉じ籠もり
ぐだぐだするのも性に合い
コロナさまさま

夕闇降りてくる頃に
おもむろに
外行く準備しはじめて
がらんがらんの通りに出ると
いつか童話で読んだよう
通りはひとっこひとりなく
街灯のあかりあたたかく
木立の陰のうすぐらく
夜はともだち
夜こそなかま
こころしずまり
じぶんにとっての
ほんとのじぶんに出会える感じ

コロナさまさま
コロナさまさま





まだ座ったまゝでいたい


  
花がいっぱい降ってくる
谷底の
だれにも知られない
四方
開かれたつくりの
…なんといったらいいだろう
亭のような中で
降ってくる花の蜜をたっぷり溶かした
ショッキングピンクの
ジュースを
まだ飲まないまゝ
時間のちょっとした停滞を
こころを裏返しにして広々と干したようなぐあいに寛ぎきって
すごく座り心地のいい椅子に

まだ座ったまゝでいたい
いつまでも
なんて
求めないけれど

まだ座ったまゝでいたい





発生即思い出



いまとなってはいい思い出だ と よく 言う

これもいつか いい思い出になるよ とも けっこう 言う

ぼくのいま現在の感覚をしゃべらせてください
毎瞬毎瞬が発生即思い出です
いつの頃からかそうなってしまって
もう
ありありと発生即思い出です
一瞬一瞬なにかが起こったと同時に思い出として思い直しているのです

あ 洗濯機がピーピー言って
洗濯の一回分を
はげしく懐かしんでいる!




小豆メモ


  
小豆メモが小豆についてのメモなのか
小豆くんについてのメモなのか
それとも小豆くんの持ち物であるメモなのか

わからないが
海岸へむかう通りの舗道の隅に
ずっと
落ちたままになっている

すぐに持ち主が取りに来ると
みんな
思ってか

それとも
だれひとり
ぜんぜん興味がないから
なのか

小豆メモ
と
表紙にぎこちない字で書かれている
小豆メモ




立っていなさい



欠如と喪失が
いつも
引き絞るような魅力を生む
海の
はずれ
生み落されそこなった
なにかの精だったのはたしかなようでも
誰もそれを思い出してくれない
腕と脚の細長い子が
空の遠さに新鮮なよろこびを覚えて
時の経過していくことに
秒針のように
生き生きした鼓動を立てている
まぶしい太陽が
やがては
もっと近づいてもくるだろうに
いまは
まだ
遠すぎてしまっていて
子の瞳ほどの大きさ
こんな瞬間をひとりだけで経験できる
幸運を
たしかには噛みしめもせずに
すこぶる暢気に
まったく足元を濡らしさえせず
立っている
立っていなさい



2020年4月21日火曜日

三枝君も木下君も




タンパク質やペプチド中のペプチド結合を加水分解する酵素を
総称して
プロテアーゼと呼ぶ

ウイルスは
増殖過程で
じぶんたちを組み立てるのに必要な蛋白質を
感染した細胞に作らせる

蛋白質は
まず大きな分子として組み立てられる
その大きさのままではウイルスを組み立てられないので
材料としてふさわしい程度の大きさに
切断する必要がある

プロテアーゼがその仕事をする

人体内では
なにより
歯周病菌が
このプロテアーゼを新型コロナウイルスにたっぷりと提供する

で

コロナ時代にもちっぽけな恐れにめげずに
歯医者にちゃんと行こう

となる

なるだろうな、
ちょっと、ちゃんと考えれば

歯科の宣伝をしているわけではありません。
人生の岐路で
どっちを選ぶかの
一大決断
の
前の前の前の……あたりの例を出してみているのです。

人生の岐路での一大決断なんて
なんどかあったが
簡単に言葉にはできねぇよ
プライバシー
に関わる
って
もんだから
な

書きつける言語配列には
プライバシーは
断じて
落しこまないもんだ
自然主義作家じゃ
ねぇんだからな

なぁ、おい?

(どうして最後のほうは
(「ねぇんだからな」とか「なぁ、おい?」とか
(鯔背を気取る兄ちゃんみたいになったのであろうか?
(わたくしにはよくわからぬが
(人ひとりの持つ言語領域は無数の層から出来ているため
(時代時代にあわせた公式的言表モード以外の層を
(ふいに選択したくなる衝動に刺激されると
(そのようなことも起こるのであろう
(そうした衝動がどこからどのように発生するか
(ということのほうが
(記されていく「作品」よりも
(わたくしにははるかに興味深い
(言語心理学者の三枝芳美君や
(言語精神分析家の木下巽君の領域かもしれぬが
(つまらなくってなぁ
(両君の論文
(読む気にならないんだよ
(家に集まってウィスキーなど飲みながら喋るときには
(面白いのになぁ
(三枝君も
(木下君も