結局は謎の中を
知恵は通っていかなければならない
エミリー・ディキンソン
9月29日から10月7日まで
パリでは
2027年ウイメンズ春夏のコレクションだったので
ちょっとパリに行ってみていたが
すべてのコレクション会場に
入るわけでもないので
ハローウィンを先取りした路上でのデモ騒ぎや
大声張り上げ騒ぎなどを
遠巻きにちらちら見たりしていたが
なにせ
連帯趣味もないし
主張が嫌いだし
わがミューズはマラルメと同じく
「〈無力〉という近代のミューズ…」でもあるし*
ミルトンの『失楽園』のサタンの言うように
さらにはまた
ジェイムズ・ジョイスの座右銘でもあったように
NON SERVIAM
(われは仕えず)
こそ
わが銘であるし
なにより
エミリー・ディキンソンの書いたように
大声で生きるなんて耐えられない
大さわぎはいつも恥ずかしかった
のだから
面白くもない人体がごそごそ集まっての
アリごっこ
を見ているのには
すぐに
飽きてしまって
結局は
やはりいつものように古本屋を
ぽちぽち
まわったりして
やはりいつものように
どうでもいいような
どうでもよくないような
本を
またちょっといっぱい買っちゃって
ちゃんと読む
というのではなしに
ぱらぱら
ぱらぱら
あっちこっちのページをめくって
豪華な
贅沢な
蕩尽的な時間の使い方の
最たるものを
またやらかしてしまうためにカフェのテラスにちょこなんと座って
もちろんエスプレッソのドゥブルを頼んで
洋梨のタルトも頼んじゃって
ちゃんと読み直していなかったモリエールの何冊かも
もちろん面白そうだったが
むかし1985年のこと
アンドレ・ピエール・ド・マンディアルグさんの家に呼ばれていった時に
マンディアルグさんがふと洩した言葉
「サドだったら
私はいま
『ジュスティーヌ』が面白いかな…」
この言葉に誘われて
家にあるというのに買い直してしまったポッシュ版の
ベアトリス・ディディエ校訂版の『ジュスティーヌ』を
よく熱が入ってとろとろになった洋梨を舌の上にほろほろさせながら
ページを繰り始めると
ああ
これって三島由紀夫の文体!
って懐かしくなり
そうかサドって三島由紀夫だったんだなやっぱり
と奇妙なふいの納得
1985年にわたしをマンディアルグさんに会わせてくれたのは
マレー区住まいの老女リュースで
髪はボサボサ
着ている物はいつもモコモコの古い毛皮だったが
昔はアンドレ・ブルトンの愛人で
本人も美術評論家になりかけたそうだったが
うまく続かなくて
マレー区の文化的放浪女のようになった
らしい人
ぶっきらぼうで
いつも
酒の臭いをぷんぷんさせて
議論で激すると
食事の際に握っているナイフを振り回すので
まわりの友人知人たちはヒヤヒヤしていたものだったが
なぜかわたしには親しくしてくれて
あるディナーの時
「アンドレに会わせるわ」
と言ったものだった
アンドレ
なんてフランス人にはいっぱいいるので
「どのアンドレなの?
ひょっとして、死んでいるはずのブルトン?
降霊会で呼び出すとか?」
などと聞くと
「マンディアルグよ」
というものだから
「へええええええ」
と驚いてしまった
リュースはとうに死んでいるはずだが
なぜだか
いつのまにか
リュースとは疎遠になってしまって
どのように老い募っていったか
どのように死んでいったか
わたしには伝わってこなくなってしまった
フランスの二代や三代前ほどの世代の
一時期は
もっとも親しくつき合った人たちのうちのひとりで
かつてはシュールレアリストたちと親しんでいた
マレー地区のリュースよ
その霊の安らかならんことを
https://www.youtube.com/watch?v=r99lvk32nIY
https://www.youtube.com/watch?v=1V2cQhMj9FY
https://www.youtube.com/watch?v=yJMkhstsLpY
https://www.youtube.com/watch?v=bHucumEDoWU
https://www.youtube.com/watch?v=QJAhSRJLhrU
https://www.youtube.com/watch?v=eWOl2RhllrE
https://www.youtube.com/watch?v=weNFjc2l1Hw
https://www.youtube.com/watch?v=kzLdQeh1vBs
*マラルメ『文学的交響曲』