2026年8月19日水曜日

ただそれだけの理由で

 


  

ことのほか

闇たちが華やいで

河をみな

渡り終えてしまったようだった

 

ひとり

衰弱を早めて逝った娘が

霧の舟の上に立って

戻ってくる

 

夜が鳴いている

 

納屋の奥なんかで

時代錯誤に

ガラスの煤けたランプを灯して

わたしたちだけでも

古くから伝わった本を朗読していきましょう

 

小さな蛾が

ときどき灯りのまわりに来るけれども

それこそ

永遠の幸福の兆し?

 

闇たちが渡っていってしまった河を

逝った娘は戻ってくる

 

夜が鳴いている

 

夜はあまりに大きすぎる

生き物だった

わかる

 

納屋の奥にいるわたしたちからは

見えないけれど

河のむこうでもなければ

こちらでもない

遠いところに

巨大な都市があって

夜も光が絶えないというのだが

朗読の声の隙間隙間に

音の目で見えるようには感じている

 

そこに行く必要はなく

たぶん

わたしたちのほとんどは行かないだろうが

誰かひとり

ふたり

行こうとするに違いない

 

古くから伝わった本を朗読する

以外のことを

ほんのちょっと

やってみたい気持ちに

駆られて

 

ただ

それだけの

理由で





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