2025年5月21日水曜日

「いま4時46分!」

 

 

 

引っ越してから

もう

9年ぐらいになるのか

 

以前の住まいのほうに借りてある

トランクルームを

そのまま

借りっぱなしにしてあるが

手放そう

手放そう

と思いながら

まだ整理ができておらず

借りっぱなし

 

いまの住まいから

30分ほどで行けるのだが

いざ行こうとなると

時間や仕事の調整も必要になるので

そう容易には行けず

9年ほどほったらかしになった

 

借りたのは

以前の住まいに

さらにそれ以前の住まいから越した時の

1年後なので

16年ほど前になる

 

そこには

死んだエレーヌのところにあった本も

いっぱい収めてあって

整理しようにも

手放そうにも

段ボール箱から出し直して

いちいち見直して

他の箱に入れ直して

どれを手放すか

どれを手元になお残すか

考えないといけない

 

これが億劫なので

なんとなく

30分ほどの距離なのに

行く気が薄れてしまう

 

きょうはひさしぶりに行ってみて

段ボールを3箱たたみ

未整理の箱があと16箱というところまで

たどり着いた

 

手元に置くべき本は

スーツケースに入れて持ち帰ってくる

途中メトロに乗るので

会社員が帰り出す夕方の17時頃までには

メトロに乗ってしまっていたい

持ち帰るのはいつも

数十冊から100冊ぐらいだが

まったくこの労働は

蔵書5万冊になってしまった報いで

ただただ愚かな話と思う

 

それでもきょうは

いちばん奥に埋もれていた箱を開けて

16年ほど触れなかった

ミラレパの経典のフランス語訳や

カルロス・カスタネダの本ぜんぶを持ち帰れたのは

幸いだった

 

トランクルームへ向かう途中の

マンションの日当たりのいい植込みで

東京では今どきめずらしく

元気そうな野良猫が歩いているのを見れたのも

幸いだった

 

重くなったスーツケースを引いて

ふたたび駅にむかう時

小学生のメガネの女の子から声をかけられ

「すみません! いま何時ですか?」

と聞かれたのも

東京では今どきめずらしかった

見知らぬ人とはしゃべってはいけない

などという

嫌人性助長教育が公然と奨励されている現代日本なので

見知らぬ大人に時間を聞く子どもなど

絶えて絶滅してひさしいものと思っていたのだから

 

数字が太字で表示される

カシオのGショックのデジタル時計をつけているものだから

時刻は正確に分まですぐに見てとれる

「いま446分!」

と間髪を置かず答えてやったら

あまりに即座に分まで返されたものだから

女の子はちょっと驚いて

口をポカンと開けたけれど

すぐに

「どうもありがとうございました」と

初級日本語の教科書のような返答をしてきた

 

こんな女の子もいて

野良猫もいて

以前住んでいたところあたりは

のんびりとした初夏の

ちょっと暑くなり出した

明るい夕方であった






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