2025年5月14日水曜日

液状腐敗物

  

 

 

太陽王とも呼ばれた絶対君主

ルイ14世の晩年は

まさに太陽王と呼ばれていたがゆえに

あまりに悲惨で

彼の肉体的な不具合をちょっとでもふり返ると

この絶対君主の

というより

老い衰えていく時の人間全般についての

悲惨さしか待っていない終焉というものを

つくづく考えさせられる

 

歯が悪かったのは有名で

いつも歯周病の悪臭が周囲に漂っている

侍医アントワーヌ・ダカンは

歯はすべての病気の温床だから歯さえ抜けば健康になる

というとんでもない医学論を主張していたせいで

(もっとも末期的な歯周病ではその考えも正しいか)

王の歯はぜんぶ抜かれてしまった

抜歯は12回も行われたという

歯といっしょに口蓋の半分も取ってしまったというのだが

想像するだに恐ろしいではないか

 

麻酔のない時代だったので

抜歯はすべて無麻酔で行われた

消毒にしても

真っ赤に焼いた鉄の棒で歯茎を焼いて“消毒”した

こんな手術を受けて歯をぜんぶ失った彼は

8時間以上も煮込んだ

ぐだぐだの鳥肉しか食べられなくなったという

 

胃腸も悪かったようだが

そんな口内と胃腸の状態でも

大食漢であり続けていたそうで

年がら年中下痢ぎみで

大便というか水便というかを

つねにオマルにぶちまけ続けていた

衣装にも当然水便は漏れるので

ルイ14世の周囲では便のきつい臭いが漂っている

周囲に集まる臣下たちは水を浸したハンカチを

いつも鼻にあてるようになった

便をしながら命令を発するのも普通になり

椅子には排便用の穴を開けておくようになり

このスタイルはルイ14世スタイルとして

臣下たちも真似するようになった

 

足は痛風で痛み続け

膀胱には結石が溜まり

肛門は崩壊していて

性器は淋病で蝕まれている

女漁りにあけくれた王も

こんな状態になっては

さすがに生活を変えざるを得なくなったが

マントゥノン夫人は真摯に面倒をみたという

王も夫人も信心深くなったそうだが

悪魔がある人間を利用するのをやめて見捨てると

その人間は信心深くなる

という格言がフランスにあるのを

よくよく忘れないでおこう

歳をとって信心深くなった連中を簡単に認めたりすれば

馬鹿をみること必定である

 

20歳の頃に大病をして

ルイ14世は毛髪のほとんどを失ってしまっていたともいわれる

彼を描いた絵画などでは

立派な髪の毛の盛り上がりをしているのが見られるが

あれはかつらで

もともと160センチ程度の背丈だったのを

下駄をはかせて見せるのに役立った

ハイヒールを好んだのも当たり前だろう

太陽王が『オースティン・パワーズ』のDr.イーブルのようでは

やっぱり見栄えがよくないのだ

https://www.youtube.com/watch?v=tI3rmBGDMxo

 

1715年に

ルイ14世は足に壊疽が広がって死に至るが

腐敗した自分の肉体の悪臭の広がる中で

けっこう平静を保っていたようである

王のかたわらで涙する者たちには

「朕が不滅だとでも思っておったのかね?」と

なかなかブラックなユーモアを開陳したのだとか

 

フランス革命の最も過激化した1793

ブルボン家の墓所が開けられた際に

ルイ14世の棺も暴かれたが

遺骸の形状は見分けがついたものの

壊疽が全身を食い尽くしたようになっていて

インクのように真っ黒になっていたという

 

この時の墓荒らしの際の

他の王侯の遺骸についての情報も

ついでに少し加えておこう

 

ルイ14世の父ルイ13世の遺骸はよく保たれ

特徴のある髭の形状によってしっかりと識別されたという

ところが祖母のマリ・ド・メディシスや

母アンヌ・ドートリッシュや

妻マリ・テレーズ・ドートリッシュの遺骸や

くわえて息子のルイの遺骸も

「液状腐敗物」でしかなかったという

それらは「すさまじい悪臭を放つ黒く濃い蒸気を放ち

酢とおしろいでなんとか追いやった」という

この時暴かれたブルボン家の遺骸は共同墓穴に投げ込まれたが

マリ・ド・メディシスやアンヌ・ドートリッシュや

マリ・テレーズ・ドートリッシュや息子ルイたちの

この「液化した腐敗物」については

投げ込むというより流し込むという表現のほうが

ふさわしかったそうである






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