2025年5月4日日曜日

A very merry unbirthday to us !


 

 

 

なにかのついで

もののはずみ

昔なつかしいウォルト・ディズニー(Walt Disney)のプロデュースした

なんと1951年の

アニメの『ふしぎの国のアリスAlice in Wonderland)』をちょっと見たら

引き込まれてしまって

「たいへんだ、遅れる!」と駆けていく例のウサギだの

チシャー・キャットだの

キチガイ帽子屋のティーパーティーだのと見ていくうちに

ぜんぶ見終えてしまって

なんとも恐るべき

完璧!・至上!・絶対的!・決定的!なアニメの模範に

制作から74年も経っているというのに

陶然となってしまった

 

https://www.youtube.com/watch?v=Bkr2GOhANYM

 

https://www.youtube.com/watch?v=7r_EFt_9WLw

 

 

幼稚園に入る前に

こんなのを(当時は)モノクロで見ていたのだから

マンガにもアニメにも要求は高くなるはずで

昔のニッポンのマンガが貧相でわびしく見えてイヤだったのも

ムベなるかな

であった

 

子どもの頃はあまり注意しなかったが

歳をかさねてから見て

いろいろ人界への皮肉が効いていて楽しかったのは

キチガイ帽子屋(Mad Hatter)と

三月野ウサギ(March Hare)

ヤマネ(Dormouse)が歌う

「誕生日じゃない日おめでとう!」の歌で

A very merry unbirthday to us !

A very merry unbirthday to me !

A very merry unbirthday to you !

などと歌って楽しがっている光景は

人類史上ただものではなかったルイス・キャロル(Lewis Carroll)

まさに面目躍如たるものがあって

こんな歌や文句にふいに出くわすこと自体

なによりも得がたい恩寵といえる

 

https://www.youtube.com/watch?v=c_7Q6dCS-e0

 

歌の内容は

だいたい

こんなふうになる

 

君と僕とが生まれなかった日

誕生日じゃないとってもめでたい日
祝え 誕生日じゃないとってもめでたい日
祝え 誕生日じゃないとってもめでたい日 万歳!
誕生日じゃないとってもめでたい日 万歳!
僕の?

誰の?

僕の?

君の?
誕生日じゃないとってもめでたい日 万歳!
君の?

俺の?

そうだ!

俺だ
乾杯しよう! 祝おう! おめでとう!
誕生日じゃないとってもめでたい日 万歳!
ヤッホー ヤッホー
誕生日は1年に1度っきり
そうとも たったの1回さ
でも 誕生日じゃないとってもめでたい日は364
ってことは?
年がら年中お祭りだ 万歳!
誕生日じゃないとってもめでたい日 万歳!
私に?

そうだ!
誕生日じゃないとってもめでたい日 万歳!

 

この歌は

ディズニーのプロデュースした『ふしぎの国のアリス』ならではの

みごとな創作で

ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』原作にはない

 

「誕生日じゃない日」という発想は

『鏡の国のアリス (Through the Looking-Glass)』に出てくるもので

ハンプティ・ダンプティ(Humpty Dumpty)とアリスの

あの有名なトンデモ対話で披露される

 

『鏡の国のアリス』のこの箇所については

フィリップ・K・ディックのヴァリス三部作

(『ヴァリス』『聖なる侵入』『ティモシー・アーチャーの転生』

を新訳した山形浩生氏が

ネット上に翻訳を公開してくれているので

ちょっと覗いておこう

 

ハンプティ・ダンプティのひねくれ議論は

すこし長くなるし

面倒くさいが

昨今もっとひねくれて

ややこしいトンデモ議論ばかりが飛び交う地球上と比べれば

まだまだなんのその

ではある


 

………………………………………………………


 

「そこにつけてらっしゃるベルト、すごくきれいですね!」 アリスはいきなりもうしました。

 (歳のはなしはもういい加減たくさんだと思ったのです。そして話題を順番に選ぶというのがほんとうなら、こんどは自分の番だ、とアリスは考えました。)「もとい」と考え直して訂正します。「きれいなチョーカーですね、と言うべきだったかしら――いいえ、やっぱりベルト、じゃなくて――あらごめんなさい!」アリスはがっかりして付け加えました。ハンプティ・ダンプティはすっかり怒ってしまったようで、別の話題にすればよかったとアリスは後悔しはじめたのです。「まったく、どこが首でどこがウェストだかわかったらいいのに!」とアリスはこっそり考えました。

 しばらく何も言わなかったものの、あきらかにハンプティ・ダンプティはとても怒っていました。そしてやっと再び口をきいたときにも、それは深いうなり声でした。

 「まったく――なんと言ったらいいか――ベルトとチョーカーの区別もつかんとは――実にまったくもって――不愉快なことこの上ない!」

 「はい、もの知らずなのはわかってるんですけど」とアリスはじつにへりくだった調子で言ったので、ハンプティ・ダンプティも機嫌をなおしたようです。

 「これはチョーカーだよ、おじょうちゃん。しかもその通り、非常に美しいものだね。白の王さまと女王さまからの贈り物なのだよ。どうだね!」

 「まあ、そうなんですか」アリスは、やっぱりこれはいい話題を選んだとわかって、とてもうれしく思いました。

 ハンプティ・ダンプティは、片ひざを反対のひざのうえにのせて、それをそれぞれの手でつかみました。

   そして、考え深そうに続けます。「お二人はこれをだね――非誕生日プレゼントとしてわたしに賜ったのであるのだ」

 「あの、すみません」とアリスは、不思議そうに言いました。

 「別に怒っちゃいないよ」とハンプティ・ダンプティ。

 「そうじゃなくて、いったい非誕生日のプレゼントってなんなんですか?」

 「お誕生日じゃないときにもらうプレゼントだよ、もちろん」

 アリスはちょっと考えこみました。そしてやっと「あたしはお誕生日のプレゼントがいちばんいいな」と言いました。

 「あんた、自分がなに言ってるかわかってんの?」とハンプティ・ダンプティ。「一年は何日?」

 「三百六十五」とアリス。

 「で、あんたのお誕生日は何回?」

 「一回」

 「それで三百六十五から一を引いたらなんになる?」

 「三百六十四よ、もちろん」

  ハンプティ・ダンプティは疑わしそうな顔をします。「紙に書いてもらったほうがいいな」

 アリスはメモ帳を取りだして、計算をしてあげながらも、つい笑ってしまいました。

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 ハンプティ・ダンプティはメモ帳をとって、しげしげと見つめ、「正しいように見えなくもないが――」と切り出しました。

 「逆さにお持ちですけど!」とアリスが口をはさみます。

 「いやはやその通りだ!」とハンプティ・ダンプティは、アリスにメモ帳をひっくり返してもらって陽気に言いました。「どうも様子がへんだとは思ったんだ。で、言いかけていたように、正しいように見えなくもない――が、いまじゅうぶんに目をとおしてる暇がないもんでね――そしてこれで、非誕生日プレゼントをもらえるかもしれない日が三百六十四日あって――」

 「そうね」とアリス。

 「そしてお誕生日プレゼントの日は一回しかないのがわかる。さあのめや歌えや!」

 「のめや歌えやって、なにをおっしゃってるのかわかんないです」とアリス。

 ハンプティ・ダンプティはバカにしたような笑いを浮かべます。「そりゃわかんないだろうよ――わたしが説明してやるまではね。いまのは『さあこれであんたはこの議論で完全に言い負かされたわけだ』という意味だ」

 「でも『のめや歌えや』って、『これであんたはこの議論で完全に言い負かされた』なんて意味じゃないでしょう」とアリスは反論します。

 「わたしがことばを使うときには、ことばはわたしの選んだ通りの意味になるのである――それ以上でも以下でもない」ハンプティ・ダンプティはつっけんどんに言いました。

 「問題は、ことばにそんないろいろちがった意味を持たせられるかってことよ」とアリス。

 「問題は、どっちがご主人さまかってことだ――単にそれだけの話」とハンプティ・ダンプティ。

 

(「第6章 ハンプティ・ダンプティ」 より)

 

 





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