2025年7月5日土曜日

大きな揚羽蝶と大きな青条揚羽と


 

 

 

真昼だったので

気温は

34℃ほどだったのではないか?

 

むかし庄屋だったという

大きな敷地の邸宅のわきの急坂は

その敷地からはみ出す木々の枝葉でところどころ翳り

真夏の葉の繁りはみどり深く

蒸し暑さに時にはつらくなりながらも

上り下りする者に

夏の実態ともいうべき豊かさを感じさせる

 

この急坂を下りる時には

大きな立派な揚羽蝶が舞っているのを

見た

ひとりの静かな時に訪れてくる蝶は

かつて親しかった人の

魂の化身だという話もある

そう思いながら

ゆっくり舞うさまを見ていたが

こちらの歩みに付き添ってくる気配はなかった

木々のなかにふと現われた

精霊だったかもしれない

 

夕暮れになって

帰りの際は

この急坂を上っていくことになったが

その際には大きな青条揚羽が

手の届きそうな頭上の葉々をかすめながら

舞っていた

 

それを見ながら

ただ蒸し暑いばかりで

つらい夏の日だったと嘆く人ばかりの一日

わたしばかりは

大きな揚羽蝶と大きな青条揚羽とに恵まれた

ゆたかな一日を過ごした

と思った

 

この急坂から遠くない

短い地下通路では

真昼

つよい日差しを避けて

薄闇のなかに老夫婦が立ち止まっていた

 

体調が悪いのではなさそうで

つよい日照のなかを歩いてきて疲れた身体が

いくらか回復するのを

待っているような様子だった

 

夕暮れには

もちろん

地下通路に老夫婦の姿はなかった

 

老夫婦が

真昼に立ち止まっていた場所を過ぎながら

ひょっとしたら

昼間にも

彼らは此処にいなかったのかもしれない

などと

思ってみた

 

 





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