2026年2月3日火曜日

エメラルド・タブレット抄  2・2

 

 

 

定家卿ト云フ名人ノ手跡、以外ノ悪筆也

   後世風評

 

 

 

22

 

人界でのつよさは、手持ちの物語への盲信と、他者の物語への鈍感さにかかっている。だから、よわさこそ、真のつよさだ。

 

ともあれ、苦痛にみちていても、ここにいる(と思う)ことは、驚くべき出来事である。ある時ある場所に生まれたという物語を親が「わたし」に語り、この土地の発声と意味の体系を脳を通して精神へと刻みこみ、やがてそれの体系のスクリーンに「わたし」の架空の姿を反射させるようになった……

 

……それも物語だ。物語のそとへひとは出られない。恩寵として脳障害や精神分裂、植物人間化、記憶喪失などを考える必要がここに生じる。物語が止む時を、特権的な聖なる時間とみなすべきだ。

 

物語をつくることは? それで、物語を停止させうるだろうか?

 

 

 


 

 

[初出] NOUVEAU NOUVEAU FRISSON (ヌーヴォー・ヌーヴォー・フリッソン) numéro 7 (19968)
編集発行人 駿河昌樹
発行場所 東京都世田谷区代田115、ホース115205 155

 

 






0 件のコメント: