高尚なるものを求めて
なんと多くの時を費やし
労力を注いで
時には気息奄々となりつつ
かろうじて
生きのびてきたか!
たとえば
マーラーの交響曲第五番は高尚であり
出だしのあの悲愴なるトランペットの響きの
ああ!
なんと悽愴きわまることか!
もっともっと
と
さらに
さらに
と
素晴らしい
壮絶な
哀しみの極みのような
いっそうの
トランペットの響きを求めて
ああ!
なんとたくさんのレコードやCDを聴き
演奏会にも足を運び続けたことか!
https://www.youtube.com/watch?
https://www.youtube.com/watch?
ところが
つい先日のことである
住宅もあれば
田畑も混じる郊外を
わたくしは20分以上歩き続けて
用事のある場所へ向かった
こんな時には
歩きながら
外国語の聴き取りの勉強をしようと思って
いつも
軽いmp3プレーヤーを鞄に入れてある
しかしながら
どうしたことか
どう血迷ったか
前日
なぜだか
やむにやまれぬ衝動のようなものに駆られて
そのプレーヤーに
昭和歌謡や演歌をいくつか
入れておきたくなった
そうして
住宅もあれば
田畑も混じる郊外を歩きながら
わたくしは
聴いたのである
まずは
森進一の「港町ブルース」を
https://www.youtube.com/watch?
はじまりの
このトランペットの
おお!
なんと輝かしい
なんと美しく通俗な
なんと昭和な
この朗々たる響きぶりはどうだろう!
高尚なる
あのマーラーの交響曲第五番の出だしに
音響効果の点で
まったく負けていないではないか!
そうして
藤圭子はどうだ!
「新宿の女」のはじまりの
これもまた
せつなく煌めくトランペットは!
マーラーが聴いたら度肝を抜かれて
交響曲第五番の出だしを
変えてしまったかもしれないではないか!
https://www.youtube.com/watch?
もちろん
石川さゆりの「津軽海峡・冬景色」も
続けて聴いたのである
どう見ても
これはマーラーを超えている
超えているのだ!
https://www.youtube.com/watch?
https://www.youtube.com/watch?
ごらん
あれが竜飛岬
北のはずれ
と
見知らぬひとが指をさす
息で曇る窓のガラス
拭いてみたけど
はるかにかすみ
見えるだけ
さよなら
あなた
わたしは帰ります
と
昭和の日本語詩の
最上の瞬間も
襲いかかってくるのだ!
ふたたび
森進一の「港町ブルース」に戻り
磨き抜かれた
手練れの日本語歌詞を
たどり直す
流す涙で割る
酒は
だました男の味がする
あなたの影を
ひきずりながら
港 宮古 釜石 気仙沼
出船 入り船 別れ船
あなた乗せない帰り船
うしろ姿も
他人のそら似
港 三崎 焼津に 御前崎
別れりゃ
三月
待ちわびる
女ごころの
やるせなさ
明日はいらない
今夜がほしい
港 高知 高松 八幡浜
呼んでとどかぬ
ひとの名を
こぼれた酒と指で
書く
海に涙の
ああ
愚痴ばかり
港 別府 長崎 枕崎
………
古賀政男の
「影を慕いて」の継承が
あなたの影を
ひきずりながら
には
まだ
ある気もするが
それにしても
海に涙の
ああ
愚痴ばかり
とは
よくぞ
言ったもの
と
つくづく
しみじみ
感嘆させられる
高尚
捨てたか?
ようやく
捨てた
か?
旅路の果てか?
ここ
は
鹿児島
旅路の果て
か
………
………
………
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