2025年11月18日火曜日

凍る涎

 

 

ひところ

言葉を使うことや

すこし難しめの漢字を使うことも

すっかり廃れてしまった

と見られた時代が

瘴気のように街から街を

覆っていた

 

ところが

電気じかけの印字機や

印刷文字そのままを映し出す

小さなモニター付き印字機が広まると

いつのまにか

奔流の文字の世紀

 

いまや

文字でしゃべる

しゃべる

売文屋でも

書記でもない万人が

しゃべる

しゃべる

文字で

 

ところが

たいていは

凍る涎

突然巨大になった口から

 

ぼくたちの突然巨大になった口が凍る涎をたらす

 

吉岡実「或る世界」

 

 



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