2025年11月24日月曜日

曲なしで読まれるためのことばは

 

 

 

あなたは本のこのページを開けた。

23ページめくってみて、

ぼんやりと題名や著者の名や発行者を見つめ、

ほとんどの場合に小説のはじめにある、

カッコに入れられた例の文も、たぶん、探してみた。

なにかしらいい感じになり、

著者がじぶんを守るために

じぶんよりもっと重要な誰かさんにちょっと繋がろうとするための

ああいった文だ。

ル・クレジオ 『愛する大地』

 

Vous avez ouvert le livre sur cette page.

Vous avez tourné deux ou trois pages,

en regardant distraitement le titre, le nom de l'auteur, l'éditeur,

et vous avez peut-être cherché cette phrase entre guillemets

qu'il y a presque toujours au début des romans,

parce que ça fait bien

et que l'auteur se protège

un peu en se référant à quelqu'un de plus important que lui. 

Le Clézio TERRA AMATA, 1967

 

 

 

 

 

歌われる曲のことばは

聞きやすくて

楽しくて

考えごともやめて

うっかり

聞いていたりする

 

曲なしで

読まれるためのことばは

ときどき

すっと意味が入ってこなくて

乗っていこうにも

迷わされたりもして

文字は読めても

読めなさが

ちょっとイライラ

 

けれど

曲なしで

読まれるためのことばにも

じつは

曲ができていて

段落わけや

漢字や

ひらがなや

カタカナの使い分けや

わざとっぽい

ぼかしぐあいなどを

ていねいに拾って辿っていくと

そうしたすべてが

じつは曲だったんだね

と気づく

 

そうして

街のなかを走る

ふつうの電車に乗りながら

窓のそとの

まばらな木々の通過や

次から次と

目に入ってくるいっぱいの家々や

あの道この道

とぼとぼ歩いている人や

走っていく自転車

後から後から

感心するほかない数の車なんか

見ながら

開いた本のことばたちにも

ちらちら

目をやり続けていると

聞こえてくる

曲が

音楽が

 

ことばなき歌

さえもが

 





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