あなたは本のこのページを開けた。
2,3ページめくってみて、
ぼんやりと題名や著者の名や発行者を見つめ、
ほとんどの場合に小説のはじめにある、
カッコに入れられた例の文も、たぶん、探してみた。
なにかしらいい感じになり、
著者がじぶんを守るために
じぶんよりもっと重要な誰かさんにちょっと繋がろうとするための
ああいった文だ。
ル・クレジオ 『愛する大地』
Vous avez ouvert le livre sur cette page.
Vous avez tourné deux ou trois pages,
en regardant distraitement le titre, le nom de l'auteur, l'éditeur,
et vous avez peut-être cherché cette phrase entre guillemets
qu'il y a presque toujours au début des romans,
parce que ça fait bien
et que l'auteur se protège
un peu en se référant à quelqu'un de plus important que lui.
Le Clézio TERRA AMATA, 1967
歌われる曲のことばは
聞きやすくて
楽しくて
考えごともやめて
うっかり
聞いていたりする
曲なしで
読まれるためのことばは
ときどき
すっと意味が入ってこなくて
乗っていこうにも
迷わされたりもして
文字は読めても
読めなさが
ちょっとイライラ
けれど
曲なしで
読まれるためのことばにも
じつは
曲ができていて
段落わけや
漢字や
ひらがなや
カタカナの使い分けや
わざとっぽい
ぼかしぐあいなどを
ていねいに拾って辿っていくと
そうしたすべてが
じつは曲だったんだね
と気づく
そうして
街のなかを走る
ふつうの電車に乗りながら
窓のそとの
まばらな木々の通過や
次から次と
目に入ってくるいっぱいの家々や
あの道この道
とぼとぼ歩いている人や
走っていく自転車
後から後から
感心するほかない数の車なんか
見ながら
開いた本のことばたちにも
ちらちら
目をやり続けていると
聞こえてくる
曲が
音楽が
ことばなき歌
さえもが
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