死臭のするコーヒーが注がれたまま
きみを待っているのに
まだ行かないのかい、きみ?
ガラス玉を連ねた暖簾が隙間だらけに区切るのは
むごたらしく死んだ幼女の部屋と
新婚のための薄くあかるいイエローの壁のこころよい部屋
空気もあかりもいつも行き来している二部屋の
あいだで猫のラ・ヴィはよく逡巡するけれど
春の芽吹きの若みどり
その一枝をいつも胸ポケットに刺しているかのように
溌剌と
しかしいくらか寒そうに
この大きな館のなかを歩きまわっているきみは
さぁ、どのあたりだろう、今日は
きみを待っているのに
死も
腐敗も
分解も
まだ行かないのかい、きみ?
―そう、わざと
まぎらわしく記し
どちらが待っていて
どちらが待たれているか
すこし混乱するように晴れやかに
いつもながらに
ぼくの構成するたおやかな
かるい魔法陣
きみを待っているなんて
うそ
いつもいつも
口実や材料でしかない
きみよ
とはいえ
しかし
なんと大きな大きな館であることか、ここは
まよう
愉しみ、ここに
まよう愉しみ
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