友だちが死んで
家財や書類や
いろいろな関係・契約・しがらみ・友情…
いっさい合切の処理を
ひとりで請け負った10か月
毎日ひとりで
友だちの住まいに行って
あっちの荷物をこっちに移したり
こっちのモノを箱に入れたり
出し直したり
また入れ直したり
そんなふうにしながら
ひとりの人の廃墟を
後に残った文物を
その山を眺め暮したら
わたしの意識は変ったのです
生きている人のまわりには
ごく自然に
さまざまなモノがある
でもそれらが自然でなどないのだと
体の筋肉や神経のすみずみで
わたしは理解した
モノはモノではない
人がひとつひとつ
手にとって
目で眺めて
あれこれ考えて
自分のまわりに配置するのを決めた
あるいは
自分のまわりに置くのを
受け入れた
だからモノのひとつひとつは
その人のそれまでの時間の
ひとつひとつ
その人のエネルギーの
ひとつひとつ
その人の思いや感情の
ひとつひとつ
その人に流れ込んだ運命や偶然の
ひとつひとつ
たぶん
その人の身体よりよほど
その人そのもの
その人の全体
ときどき
モノの山のはずれのイスに座って
インスタントのコーヒーなんか淹れて休み
11階の台所から
夕べの空を眺めていました
夜の街の暗さを眺めていました
人にかかわることに
なにひとつ
自然なものはない
すべてはその人の心や思いが磁石になって
あるいは運命が磁石になって
引き寄せたもの
要らなくなったものや
ゴミみたいなものだって
その人の指
その人の爪
その人の髪
たったひとりで眺めた
何度も何度も眺めた
11階からの
夕べの空が
夜の街の暗さが
いつのまにか
わたしそのものに
わたしの全体に
溶け込んでいっていました
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