フランスで有名な歴史小説家マックス・ガロの
『アンリ4世』*を読んでいたら
フランスではじめて「politique」
1562年のことだという
カトリックとプロテスタントの争いが激しい
アンリ4世の時代である
安易な比較ではあろうが
いま二派にわかれて抗争を劇化させようとしているアメリカが
ちょっと重なってしまう
「politique」はいろいろに訳せる言葉で
「政治的」とも解せるし
もちろん「政治」とも「政策」とも「戦略」とも解せる
ガロの小説ふう記述のなかでは
アンリ4世が両派の「politiques」(複数形)
とあるので
「政治家」と解しておくのがいいだろう
互いに殲滅しつくすまで殺しあう勢いの両派の抗争が続くなかで
「politique」という語が使われるようになってきた
というのは
おもしろいし納得もいく
この言葉と同じ頃に使われ出した言葉に
「寛容」を意味する「tolérance」や
「穏健派」や「中道派」を意味する「modérés」
「不平分子」を意味する「malcontents」や
「熱意に欠ける者」を意味する「tiédes」
さらには
「妥協」を意味する 「compromissions」なども
使われることになった
両者まったく相容れず
現実に殺しあい続ける政治社会状況を
フランス王国というひとつの枠のなかに包含する場合
ローマがカルタゴに行ったような完全破壊という方法は取れず
王国を維持しつつ
さらには繁栄を図りつつ
対立を沈静化していくために
言語化された知的な「政治」の誕生が起こった
と見ていいのだろう
互いに滅ぼすか滅ぼされるかでよいのならば
そこに「政治」は必要とされない
双方のエネルギーを
メタレベルのエネルギーに昇華させようとする時にのみ
「政治」は発生する
もっとも
事態はもう一段深く
深刻で
本当に「politique」という語が使われたのは
カトリックに敵対するプロテスタントに対してではなく
同じカトリック内部で
過激な行為にブレーキをかけようとする者たちに対してだった
当時の年代記作者のひとり
ジャック-オーギュスト・ド・トゥ**はこう書いている
「彼らのもくろみに抗する者たちがいると
彼らはそれらの者たちを〈politiques〉と扱う。
敵のことを呼ぶのに彼らが発明した言葉である。
この〈politiques〉
これらは、異端者たちよりも危険で有害であった。
騒乱や過激行為に反対するカトリック信者のことを
彼らはこの名称で呼んでいた」
そうだとすれば
「政治」や「政治家」
騒乱や過激行為へのブレーキとして生まれたのであり
人類知のなかにおける
栄光ある地位に
「政治」や「政治家」ははじめから位置づけられている
といえよう
*Max Gallo 〈HenriⅣ〉 (XO Editions, Paris,2016、Pocket17078)
**Jacques-Auguste de Thou
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