2013年12月3日火曜日

高原の美容室


  



夕暮れどき
高原の美容室に入った

白い床
白い壁
鏡のまわりは厚いガラスの壁で
すこし先の谷に目は向かい
そのむこうには
山々が見える

谷は
夕暮れからは
巨大な闇となる

ほかに客はいない
美容師も助手もわずかで
しずかな
仕事の音がしている

髪を洗われ
カットされ
また洗われ
頭皮も
首も肩も
マッサージされ

夕暮れどきの
高原の
美容室の
なんと
豪奢な慰安

これ以上の
なにがあるかと
思いめぐらしてみるが
忘れてしまっている
すべて
ほかのことは

なにもかも
すべて
忘れてしまっていて

谷の闇が
ほんとうに
深い
                                  
   




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