2015年11月23日月曜日

この書き付け



本当はもう何も批判すべきものもないように思うし
礼賛なんて
一場のおふざけでしか
したこともない…

寒い冬の大きな墓地から帰ってくる途中
降ってきた雨を避けて
誰も客のいない茶屋に入りました

運ばれてきた茶の湯気を見て
―あゝ、わたくしこそ本当に幸福だったではないか…!
気づきながら
まるで熟練の賭博者が脳裏に思い見るように
今後のおりおりの切り札のように
何枚も何枚も
深く知った故人たちの面影の心のフォトを
捲り直していました

そうしてわたくしは
ふと
このところ絶えてしたことがなかったように
丁寧に髪を梳かしたくなった!
化粧室と呼ぶほどのものが茶屋にはなかったので
お手洗いの脇の暗い鏡に向かい
ながらく鞄の底に入れっぱなしにしておいた古い櫛で
丁寧に
丁寧に
特に額の右上あたりを撫で付けたのでした

本当にもう何も批判すべきものもないように思うし
礼賛なんて…
と記し始めたのが
この書き付けだったのです




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