2016年11月27日日曜日

魔境



長方形の板は横から見ると線にも見えないほど薄く
それが空の高いところに浮かんでいるから
見上げる角度によっては
望遠鏡で凝視しても探し出せない
わずかでも角度がずれれば見えるはずだが
あらゆる光を吸収してしまう素材で出来ているから
どう目を凝らしても結局は見出せない
しかも10㎝×2㎝の小さなもので
これがあなたにとっての本当の魂です
といくら占師に言われたところで
どうにも為しようがない
もっとも誰であれ自分の魂に出会ってなどいないのだから
この板をわたしが見つけなければいけない道理もないのだが
存在を教えられてしまえば
やはり気になってしかたがないではないか
もっともそれが本当にわたしの魂なら
向こうこそわたしをつねに見つめているはずなのだから
こちらは気にせずに彷徨していればいいのだろう
むしろ進んでめちゃくちゃに所を変え続ければ
焦って追ってくるのではないか
この思いつきはなかなかの傑作で
子どもの手から離された風船のようにあちこち
移動し続けてきたが
いよいよ今日の午後には木星に移る予定
長方形の板が本当にそこまで追って来れるか
ちょっと怪しい気もするが
最近思うのだ
自分の魂さえ着いて来れなくなった存在というのは
これはなにか決定的な超克を果たした存在ということに
なるのではないかと
魂なしで十全に存在して行けるのなら
恐ろしいほどの何者かになったということではないかと



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