I don't need you to worry for me cause I'm alright
I don't want you to tell me it's time to come home
I don't care what you say anymore, this is my life
Go ahead with your own life and leave me alone
Billy Joel “My Life”
晴れがましく
みんな
離れ離れになっていく
いまきみの声を聞く耳など
三十年後にはひとつもなくなっているだろう
きみだって喉をもう失っている
けれど
べつの耳が続々と現われ
きみはきっとべつの喉で語り続ける
声を発するなら
喉なんてどれもこれもきみの喉
傾けようとするなら
どの耳だって親愛なる耳
どうして暗いものを語り続けたのですか?
サルトルはインタヴューでそう聞かれて
だって当時は
暗いものが流行っていたからさ
と答えた
流行に乗ってみる御茶目さも
ひょっとしたら人間を演じる秘訣のひとつ
ぼくもたくさん書き散らした
落胆絶望無意味無価値虚しさ悲嘆放心ナンセンス
どれもこれも言葉に乗せるのは楽しかったし
どれもこれもちゃんと辞書に出ていて
いわば人類的に公式のアップリケみたいなもの
ひとつだけはっきり言わなかったことは
ぼくは言葉を端から信じたことがなかったこと
落胆絶望無意味無価値虚しさ悲嘆放心ナンセンス
書き散らしながらもぜんぜん感じてさえいなかった
たゞの恣意的な記号をどうして真顔に扱える?
クリシュナが戦場のアルジュナに「どんどん殺せよ
すべてはカルマの要請に過ぎないんだし
殺しているのはきみじゃない。カルマだ」と
輝かしく助言したようにこの世のすべては
なにひとつ真面目になんて捉えてはいけない
馬鹿正直に喜怒哀楽を発動してしまうなんて
それこそ正直に馬鹿を露呈してしまう行為
速度はどんどん上がっていて
すさまじい速度と変化と道の急変が
誰彼問わずこれからみんなを見舞い始める
昨日のようではもう居られない事態が
実際にはもう始まっているけれども
まだまだ鈍感な人たちもいて
どうやら方々で交通渋滞を起こしている
もちろんそんなことどうでもいい
ひとり重々しく勿体ぶっていようとしても
なににつけても腰の軽いのが流行る時代になる
鈍重な精神はもっとつよい力の軽みに弾かれて
たちまち自我だの個性だのという苔を落とすはめになり
つるつるになってしまえばもう誰だかわかりゃしない
誰だかわからなくなった意識の心地よさにはすぐ恍惚となり
もう仮面さえ仮名さえ付ける気が失せてしまう
影であるどころか姿さえ見えないのが最高だとわかる
なにかを保とう残そう刻もうとしてきた精神は消える
消えても消えないのを実感して起こっていくことを信頼するまで
そういう精神たちは塗炭の苦しみを味わうかもしれないが
もともと原子を借り入れて仮の宿りをしているんだからしょうがな い
あれも仮これも仮じぶんも仮なら愛も価値も仮
なにかを主張しようと使う言葉のいちいちが仮の借り物
そんな言葉で構築する考えだの観念だの概念だのがこれまた仮の仮 の仮
力まずにこうした事情を受け入れてしまえばなんでもないのに
どう生きてきたとしてもどう努力してきたとしても
なにもかもが仮の仮の仮の土地に借り物を集めて永遠の夢を見てい ただけ
晴れがましく
みんな
離れ離れになっていく
みんな
ひとりひとりに集まった
原子が
考えが
言葉が
あれやこれやの物が
ちからが
命が
離れ離れになっていく
サルトルじゃないからね
暗いものを語っているんじゃない
いまはむしろ
理由のない明るさのほうが流行りの時代
明るさは滅びの色であろうか
と『右大臣実朝』で太宰治は書いたけれど
そうじゃないだろうね
滅びの色じゃないんだよ、やっぱり
と誰かすぐに返答してやればよかっただけの話
だいたい滅びはいつも次の創造のはじまり
一粒の麦もし死なずば
一粒の麦もし死なずば
種が種として死ななければ発芽はないからね
滅びは祝福されよ
あらゆる滅びは祝福されよ
だから暗いものを語っているのではない
そういう人類特有のわびしい感傷はやめようよ
死なんてなんでもないんだよ
特筆するなよ
ついさっきも魚や肉の死肉を旨そうに食べてきたお前さん!
他者の死肉を喰らってじぶんの生肉を養っているお前さん!
いつかお前さんが死肉になったとしても誰も悲しむ動物たちはいな い
そしてそれでまことにまことに正しい
滅びは豊かさを生む
いつまでも続く続いていく末長く云々なんていうのは本当にくだら ない
くだらない言辞はもう本当によそうじゃないか
一粒の麦もし死なずば
一粒の麦もし死なずば
死ね
滅べ
芽たちがそれを待っているよ
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