2024年7月4日木曜日

シシド君のあの不器用なデカい図体

 

 

 

旧制高校のあった時代には

寮雨(りょうう)という言葉があったそうで

学生がトイレに行かずに

学校の寮の窓から小便をすることを意味したらしい

たぶん二階の部屋に住んでいる学生たちが

屋根にツツツツツツツツとやらかしたものを言ったのだろう

ヘンなところで面倒くさがりの男子学生たちなら

このくらいのことは平気でやる

 

高校生の頃

クラスメイトにもこういう奴がいて

自宅の二階の自室から

屋根の上におしっこをすることにしている

と言っていた

 

実家は不動産屋で

けっこう大きな家に住んでいた奴で

一階にあるトイレまでなんて

面倒くさくていってられねーよ

と言っていた

 

こいつのヘンテコさやものぐささは

けっこう図抜けていて

ひとにハガキを出すのに

切手が手元にないからと言って

平気で10円硬貨を何枚か接着剤で貼って投函したりしていた

もちろんハガキは戻ってくる

「郵便局の奴、けっちいことやってやんなあ」

とかぶつくさ言って

「ちゃんと金貼ったんだから黙って届けりゃいいのに」

とかなんとか

ご機嫌なななめになっていた

 

こういう連中が

まわりにいっぱいいたのが高校時代で

そう悪ガキどもではないのだが

超然と社会規範を逸脱していてくれて

非常に楽しかったし

なにより人間というものに対しての寛大さを養えた

 

ちなみに

二階から屋根におしっこをするのをつねとし

ハガキには10円硬貨を平気で貼った巨体のシシド君は

「おれは歯医者になるよ」

と言っていたが

みんなから

「おまえみたいな不器用な奴が歯医者になれるわけないだろう?」

と言われた時

「なあに言ってんだよ。歯医者なんて金でどうにでもなんだぜ」

と答えていた

不動産屋のドラ息子として

ゴルフ部に入って

年中ゴルフ三昧だったシシド君に

いかにも

ふさわしい発言だった

 

高校時代も遠く懐かしい霞のかなたとなった頃

ふと思い出して調べてみたら

シシド君は

しっかり

彼の地元で歯科医師会の会長になっていた

 

「おめえな、歯なんて

なんでも削っちゃえばいいんだよ

失敗したら

抜いちゃえばいいんだからよ」

と言っていたシシド君の

あの不器用なデカい図体が忘れられない

 

 



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