2024年8月26日月曜日

「あなたと、コンビに、ファミリーマート」

 

 


 

ナジャは街の中にいることだけを好んだ。

街こそナジャにとって唯一の価値ある経験の場であったし、

街にいれば、空想たくましいどんな人間の問いかけにも

応えることができるのだから。

アンドレ・ブルトン 『ナジャ』 (栗田勇・峰尾雅彦訳)

 

 


 

ファミリーマートの看板は

国旗によくあるようなタイプの色分けで

上から「緑」「白」「青」と並んでいる

 

真ん中の「白」のところに

Family Mart」と青い文字が入り

いちばん下の「青」のところには

「酒 たばこ」と書かれている

 

看板のこの色分けには別パターンもある

沖縄ファミリーマートのマークは

上から「緑」「青」「白」となっており

いちばん下の「白」のところに

Family Mart」と書かれていて

その文字の並びの下にさらに

同じく青い文字ながらやや小さめに

「沖縄ファミリーマート」と書かれている

 

ネット上の公式ウェブサイトの場合は

「緑」と「青」だけで

ふたつの色のあいだに

わずかに白い空白があって

それを「白」と見なそうとすれば

見なせないこともない

 

その「緑」と「青」のフラッグの右に

少し小さな手書きふう文字で

「あなたと、コンビに、」と書かれ

その下に大きな文字で

Family Mart」と書かれている

ともに青い文字となっている

 

「緑」「白」「青」の色選びは

草っぱらの上に晴れた空が広がって

白い雲が大きく浮いているような感じで

野山でさんざん遊んだ子たちには

お馴染みの色あいだろう

とても気持ちがよい

 

「緑」と「青」だけでも

あいだや周囲に「白」があるので

見るひとは同じ印象を受ける

外に遊びに出る時には

目に入ってきてもらいたい色あいで

数あるコンビニの中でも

ファミリーマートのこの色工作は

なかなか巧みだと思う

 

セブンイレブンも「緑」を使っているが

「オレンジ」と「赤」を合わせた「緑」は

ぱっとしない鈍い印象を出してしまう

ぼく個人としてはあれを見るたび

なんだか気分がぐったりしてしまう

なるべくなら入らないでおきたい

などとまで思ってしまう

 

正確にいえばセブンイレブンの色づかいは

「緑」「赤」「オレンジ」を

「白」の上に引き立たせようというものだが

それらの合わさった様子を見ると

「緑」「赤」「オレンジ」の鈍さ重さを避けて

「白」だけを見ていたい気になる

「赤」と「オレンジ」を合わせると

両方の色がくすんで沈んでしまうのが

わからなかったのだろうか

 

ついでに言えば

SEVEN & i HOLDINGS」のロゴに到っては

7」と「i」の合わさったかたちが悪く

人を模した「i」などは気持ちがよくない

美醜の問題ではなく

脚に模したあの「i」のふたつの曲線は

一見軽やかさを演出するかのようでいて

不安定さを引き込んでしまう

 

こんな印象を個人的に抱いているぼくは

ファミリーマートのロゴや看板には

知らず知らず目をやってしまうし

セブンイレブンのロゴや看板からは

知らず知らず目を逸らそうとしてしまう

コンビニにはあまり入らないので

セブンイレブンよりもファミリーマートを選ぶ

などというわけでもないのだが

ロゴや色づかいというのは

やはり大きな効果や反効果を出すものだと

街を歩くたびにつよく感じる

 

ちなみにファミリーマート公式サイトの

「あなたと、コンビに、」という

手書きふうの書き添えは

なかなか洒落ていると感じる

「コンビニ」という言葉から

「コンビに」を引出したのもいいが

読点の使い方がちょうどいい

今ふうの「詩」があるかもなあと思う

自己顕示だけに陥ったり

わからなさ競争に走ったり

精神分裂のふりや視野狭窄ぶりを

まるで精神の最先端かのように見せつけたり

ことば足らずや身勝手な省略を

いまだに“お”文学と思い込んだりせずに

かるいそよ風程度の記号つかいで

だれにでも開く自動ドア感を出している

 

ひょっとして現代の「詩」は

だれもが気軽に入ったり

なにも買わないで出ていけたりもする

コンビニみたいなところでの

軽くてあかるい言葉づかいにしか

生存不可能になってしまっているのかも

しれない

 




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