(こう書かねばならないと押しつけてくる
(こう考えねばならないとも
(こう捉えねばならないとも
そのむこうは墓地
晴天ナリ
線香の香り
葉をすっかり落とした大きな銀杏の木
塗りの剥げたベンチがある
座って大福を食べていこうか
和菓子屋で買ったのを
壁のトタンも錆び古びて
腕も少し不自由な店主の叔母さん
主人はもう十年前に亡くなりましたが
一日二十個ぐらいずつ作って
ほそぼそやってまいりましてねえ
娘が手伝ってくれてますが
ここに縛りつけるのも可哀そうだし
甘すぎず
うまい大福
餅のやわらかみと
ほっこりした餡
茶が手もとにないが
あとでなにを飲もうか
考える楽しみ
墓地はやすらぐ
死んで
無事に弔いも済んでしまえば
けっこうなもの
葬儀も娑婆だから
差をつけたり
つけられたり
うるさいものの
火葬の時には
圧倒的になにかが終わる
終わるということが起こったのだと
桐の箱を見ながら
しみじみと思わされる
(こう書かねばならないと押しつけてくる
(こう考えねばならないとも
(こう捉えねばならないとも
押しつけてきた人びとは
まっさきに忘れられていく
逝ってしまえば
個人の趣味に過ぎなかったと
みな気づく
風潮はさびしい
過ぎていった
大波小波
放っておいても波は次々来るから
過去の波など
だれも思い出さなくなる
やりたいようにやれよ、心の若者
やりたいことが
まだ
あるなら
あるうちに
心の
若いうちに
大福
食べ終わる
おもむろにポケットに
空拳を捻じ込み
ゆるく開き
閉じ
外に出す
掌を膝に置こうか
腰にちょっとあてようか
どちらもせずに
塗りの剥げた
ベンチの上に開き
木の
節くれに
掌をつける
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