いちども海に行ったことのない友がふたり…

  

いちども海に行ったことのない友がふたりいたが

ふたりともやさしくて感じやすく

会ったり話したりするのがうれしかった

ぼくらは大人になっても草笛をしたり

ペンペン草で遊んだり

ひろくしずかな川に出ると水切りをした

いちども海に行ったことがないと

ひとはこんなにやさしいままかとぼくは思い

海によく行ったじぶんをすこし恥じた

いちども海に行ったことがない友がふたり

あとを追うように次つぎ亡くなってから

ふたりのやさしさと感じやすさをひとりで思い

会ったり話したりできないのがさびしかった

ぼくは老人になっても草笛をしたり

ペンペン草で遊んだり

ひろくしずかな川に出ると水切りをした

いちども海に行ったことがないと

ひとはあんなにもやさしいままかとぼくは思い

海によく行ったじぶんをとても恥じた

いちども海に行ったことがない友をふたり持って

ふたりともやさしくて感じやすく

会ったり話したりするのがうれしかったけれど

そんなぼくの生はこれだけのこと

草笛をしたりペンペン草で遊んだり

ひろくしずかな川に出ると水切りをしたり

いちども海に行ったことがないと

ひとはあんなにもやさしいままかと思い

海によく行ったじぶんを…

…恥じた

なんて

うそ

言ってみただけ

ゆたかに

たっぷり

こっくり

海によく行ったじぶんをよろこび

いちども海に行ったことのない友がふたり

いたかのように始め

ここまで

来てしまった

ぼく

という

語り