2013年7月4日木曜日

のどかな白い雲も浮かんでいたり




  

後ろ手に腕を縛られ
カトリックの大司教ら三名が座らされている
原っぱのようなところ
いっぱい人も集まっている

シリア、エドリブの田園地帯らしい

武装しているが
正規軍のではない
民間の兵士らしき男が
人びとにいろいろしゃべっている
反政府軍のひとりらしい

あれもナイフと呼ぶのだろうか
さほど大きくもない
包丁ほどの刃物を片手に持った別の男が
座らされているひとりを押し倒し
地面に頭を押さえつけ
刃物を首にあてる

カメラの前に立った野次馬の
陽光に照りはえる髪の毛を写したのか
モザイクがかけられたのか
静止してしまったように
映像はしばらく遮られるが
周囲の人びとの興奮した声は高まり
アッラーフ・アクバル
アッラーフ・アクバル
と連呼されるなかで
首が掻き切られているのがわかる

しばらくして
映像が再開されるが
草はらには血がひろがり
こちらから
あちらからと
位置を変えつつ
ギシギシ
刃物を動かしながら
男は首を切り離しつづけている
羊や山羊の首で
経験豊富なのだろう
ずいぶん力を入れているが
それでも
勝手知ったる落ちつきで
たくみに切り続ける
まわりの人びとは
口々にアッラー賛美を叫びながら
あっちにまわったり
こっちにまわったり
大興奮している
スマホや携帯で撮影し続ける者も
何名かいる

やがて
男は
首を持ち上げる
首の顎から口元が血みどろだが
鼻から上は蒼白で
しかも大きな顔に見え
掘り出された
古代の彫像頭部のように見える
重いのだろうか
ながく持ち上げることはせず
頭を失って横たわる
胴体の背中に載せてしまう
首を切られた胴体がなりがちなように
脚は力ない不自然な開き方をし
まるで脚の使い方に慣れない
小さな子供の寝姿のよう

そうして
ずっと座らされていた
となりの別の男にカメラは向く
かぶせられていた覆いが取り除かれ
下を向いている頭が現れる
やはり神父なのだろう
祈っているのか
取り乱さず
静かにうつむいている
すぐ隣りに横たわっている
背に載った頭と
頭を失った胴体が見えるはずだが
見ているだろうか
目を瞑っているのか

さっき首を掻き切った男が
おまえやってみるか
というように
覆面をした別の男に刃物を渡す
すこし腹の出ている男
さっきの男より
経験も技術も劣るように見えるが
これで
オトコになろうとでもいうのか
心をきめて
神父を地面に押し倒す
アッラーフ・アクバル
アッラーフ・アクバル
ひとりの男がオトコを上げるのを見ようと
近すぎるほど取り囲んで
人びとは声を上げる

ひとりめの殺戮とちがい
カメラは今度
正面から首に刃物が入るのを写す
カメラもオトコを上げようというのか
喉のところを横にぐっと切り裂くと
地面の草の上に血がひろがり出す
こんなにギリギリ
切らねばならないのかと思うほど
刃物をたえず左右に動かし続け
アッラーフ・アクバル
アッラーフ・アクバル
声援のなか
ようやく頸動脈を切ったのか
血がひとしきりドッと出はじめるが
弱い水量がホースからドボッと出る程度で
けっして吹き出したりはしない
それにしても
顎の真下をくりかえし切り込み
両脇に刃を動かしては
そこもくりかえし切り込んで
手間のかかる力仕事だ
もう喉はふかく骨まで切り開かれたのに
まだまだ首は断たれない
うつ向けにさせたり
またあお向けにさせたり
ギリギリ
グリグリ
作業は続いている


突然
首が上がる
切断者の手のひらで支えられ
高々と持ち上げられる
はじめの首と同じように
顎から口のあたりは血に汚れているが
顔の上のほうは蒼白になっている
大きな顔に見え
立派な骨格をしている
切断されると
人間の頭は風格をおびるのか
それとも立派な人だったのか
はじめの首と同じように
目を閉ざしている

これも
はじめの首と同じように
頭を失った背に載せられる
ふたりめのこの神父の場合は
後ろ手に縛られた手が
腰のあたりにそのままにあり
首はじぶんの手に支えられ
しかるべき場を見つけたように
ひととき安定する

鬨の声のように
人びとが声を上げる
アッラーフ・アクバル
アッラーフ・アクバル
アッラーフ・アクバル
アッラーフ・アクバル
アッラーフ・アクバル
アッラーフ・アクバル
アッラーフ・アクバル
アッラーフ・アクバル
いや
こういうのを
まさに
鬨の声そのものと
呼べばいいのか
アッラーフ・アクバル
アッラーフ・アクバル
アッラーフ・アクバル
アッラーフ・アクバル
アッラーフ・アクバル
アッラーフ・アクバル
アッラーフ・アクバル
アッラーフ・アクバル

切り離され
背の上に置かれているふたつの首を
もっとよく見ようと
もっとよく写そうと
人びとは忙しい
落着かない
よく晴れた青空が上にはひろがり
むこうには
ポッカリ
と言いたくなるような
のどかな白い雲も浮かんでいる
首を触っておこう
持ち上げてみよう
そういう人びともいて
ときどき
首は持ち上げられたり
転がされたりする

殺される前も
神父たちは静かだったが
終わったあとも
首は
ずいぶんと静かだ
静かなまゝ
さわられたり
持ち上げられたり
転がされたり
また
背の上に戻されたり

二千余年のあいだの
無数のさまざまな殉教の時にも
このようであったのだろう

首は
静かなまゝ
さわられたり
持ち上げられたり
転がされたり
また
背の上に戻されたり

そうして
よく晴れた青空が上にはひろがり
むこうには
ぽっかり
と言いたくなるような
のどかな白い雲も浮かんでいたり          








◆この書きものには、シリア内戦や、キリスト教カトリック、イスラム教に関係する内容が記述されている。しかし、作者はいずれの既成宗教の側にも組するものでない。
◆ネット上のLiveLeak.com、あるいはCatholic Onlineに載せられた、シリアのキリスト教大司教ら三人の虐殺光景を撮影したフィルムにもとづいている。首を掻き切られ切断されて殺害されたのは、スマアン・アルモウディ修道院長のフランソワ・ミュラを含む三人であり、手を下したのは反政府側の人びととされている。しかし、このフィルムの信憑性について、作者は確信を持っているわけではない。すでに、多量の残虐映像や死体映像による情報戦と化しているシリア内戦において、ネット上に見出されるものからは、容易な推測はできない情勢にあると考える。
◆内戦という括りで遠巻きに眺められているものの、世界各国は反政府軍を支援したり政府軍を支援したりして、多量の武器供給をしており、さらにそれを増加させる方向にある。イランは自国軍も投入しつつある。シリアとその周辺に限定されているように見えながら、すでに世界大戦の様相を呈し始めているのであり、日本がアメリカの尻馬に乗って、反政府側に援助を決めたのは重大なことと思われる。この書きものは、こうしたシリア情勢の観察の一環である。
◆この書きものの情報源となったLiveLeak.comあるいはCatholic Onlineの虐殺フィルムへのリンクを貼っておく。大司教らを押し倒して、時間をかけて刃物で首を掻き切っていく実際の殺戮光景が記録されており、視聴を安易にお勧めできるフィルムではない。フィルムはいきなり殺戮場面を提示するわけではないが、ご覧になる場合には相応の覚悟で見始めていただきたい。

http://www.liveleak.com/view?i=ead_1372329728

http://www.catholic.org/international/international_story.php?id=51537



                                  
   


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