2014年4月5日土曜日

たったこれだけのことを毎日するだけで



たまたまこの国に生まれあわせて
いちいち気に喰わないことばかりだが
ではよその国がいいのかといえば
やはり恐ろしいことや気味の悪いことだらけ

いいんだ、もう
ぼくはここで死んでいくから
ちからのないひとつの体に宿った身としては
そんなに悪かったわけでもない
爆弾も落ちてこなかったし
槍や剣で追われたりもしなかったし
歴史をふり返れば
こんなに平穏だった地域など稀なうち
前世のどこかでは首を切られたり
体を吹き飛ばされたり
拷問されているうちに死んだり
いろいろなことがあったに違いない
まあ不平ばかり言わないってことだ
みんな平等とか
まごころの世の中とか
そんなことの実現には立ち会えなかったが
上っ面だけでも善い人間のふりをする人たちの世っていうのも
これはこれで貴重なことだった

まわりのあの国やら
この国やら
どうも不穏な動きをしているように見えるが
ここから見るからそう映るだけかもしれないし
ここはここでものの見方を誘導されているし
本当のところはわからないぞ
実地に行ってみて
本当にいろんな人に会ってみないとわからないぞ
そう踏み止まる理性だけは保っておきたい

少しずつでもまわりの国々や
遠い国々のことばを十幾つも学び続けていて
遅々として進まないし
一向に身につかないものの
ことばを学ぼうとするだけで
おもしろいのは
それらの国々に心のドアが開くということ
悪く思ったり訝ったりする気持ちが失せて
国々の本当のすがたを見ようという気持ちが
つよく心の奥に根を張りはじめる

どこにもひどい人たちはいるが
どこにもひどい人たちだけいるはずはない
そんな当たり前のことを
一日たった数フレーズを口慣らししたり
ペンを片手に数語の綴りの練習をしたりするだけで
深いところからぼくは思い出す

ずいぶんお得なことじゃないかと
しみじみ思うのだ
たったこれだけのことを毎日するだけで
心のドアを開いたままにしておけるんだから





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