なんにでも瑕疵はある
あるにはある
照りつける太陽の下にいても
目を瞑れば
なにも見えない
瞼の裏はそれなりに暗い
むかし短歌ばかりやっていた頃
短歌は瑕疵を見つける言語ゲームだと気づいた
美しさのなかに闇を見つける
幸福のなかに来るべき破綻を嗅ぎとる
完璧のなかで未完成の欠落を悲しむ
なんとも簡単なゲームじゃないか
それが嫌になって
というより
馬鹿らしくなって
短歌ばかりやるのは
やめた
闇のない美しさを
破綻の永遠に来ない幸福を
未完成など思い出させもしない完璧を
言語ゲームでも
生活でも
創り出そうと決めた
以来
なんとも幸せにさせていただいた人生だ
単語配列を読むのが好きだから
いくらでも短歌は読むが
ビール好きが最初の一ニ杯を喜ぶように
読んでは読み
読んでは読み
プハ~ッと一瞬の喜びに浸る
けれども
断じてしない
おもしろくもない他人の短歌をじくじくと褒めようとしたり
文学めかした評言をしこしこしようとしたりは
読んでは読み
作っては作り
そのようにだけすべきことが
この世にはある
この世はあまりに広く
あまりに豊かに種々雑多
アラビア語のイスラム神秘派の詩歌をじゅうぶん読み終えたかい?
ロシア語の詩歌の名品を憂愁の霧にけぶる森の中で朗読してみたか い?
唐代の名詩を中国奥地の絶景のなかで朗読してみたかい?
そうせっついてくる声が
心の奥に
いよいよ大きくなってきている
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