2015年4月12日日曜日

たとえばこれかあれに今日決めてしまって

  

用があって近くの大きな家具屋に行った際に
ソファーの売り場をまわって座りくらべをしてみた
うちにもソファーはあるが
ひとり座りのパーソナルソファーとかいうものはないので
遊び半分にあれこれ座ってみたら
どうしてどうして
これがなかなか気持ちがいい
からだがスッポリ包まれる感じで
長い時間しずかに本を読んだりするのにはよさそう
座りくらべてみると
背もたれの傾きぐあいや座面のやわらかさがひとつひとつ違い
いざ買うとなってどれか選ぶのはけっこうむずかしいとわかった
すぐに買おうというわけでないから
本当に買おうというわけでないから
選択の決断はしないでいいまゝ
あれに座ったりこれに座ったりして売り場をふらふらし
小一時間などアッという間に経ってしまう
それにしてもいろいろなソファーがあるもので
いろいろな快適さの試みとかたちがあるもので
たかがひとり座りのソファー選びというだけなのに
豊かすぎてあっぷあっぷしてしまう
たとえばこれかあれに今日決めてしまって
来週には届けてもらうとして
窓のわきに置いて陽のうららかな休日にでも
ぶ厚い本を膝に開いて何時間も読み耽るとしようか
その時間だけは仕事も生活もすべて忘れ去ってしまうことにして
子どもの頃のように本当に本だけに没入するとしようか
そうしたらなんという幸せ
なんという充実とやすらぎ
外では陽光の中で人が時どき行き過ぎ
蝶が飛び花が揺れ車や自転車もあこがれのように過ぎる
腰や背が疲れない快適なひとり座りの椅子に支えられて
限られた時間でも本の世界にすっかり埋没できる
こんなにも本が好きな生まれつきなのに
大人になってからはたったの一度も本に埋没できたことのない自分
まるで成仏をみずから祈りでもするかのように
フワフワでありながら適度なかたさもあるソファーに座って
瀑布の滝壺への急降下場所のそう遠くもない残りの生にあって
わずかばかりの慰安を取り戻し直すかのように
目立つところの埃さながら心残りを拭い取っておこうとするかのように




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