丸い葉の草が追ってくる海
から遠い
自転車修理屋の美濃部
サイクルの末っ子
ひろき君に小さな誕生日プレゼントの
チョコレート(そう高くないので
ちょうどいいと思う)を
上げようと
学校帰りに舟木製菓に
寄ろうと
六地蔵さん(お地蔵さんが六体並んでいる
江戸時代からの古跡)のほうへ
逸れる道を歩き出した
ぼく
の同僚の弟
の婚約者のそう遠くない血縁の
市村隆夫さんの
隣家の林純さんの次男の
弘和くんは学校でその日話に出たブエノスアイレスの
なんとかいう(もう名前は忘れてしまった…)レストランの
これも
なんとかいう(もう名前は忘れてしまった…)料理が
とってもおいしかったし
とってもカラフルだった
と
横山先生の妹の三津子さんが言っていたと
横山先生が社会科の地理の時間にちょこっと言ったものだから
歩きながら思い出されてきて
どこかテレビあたりで見た南米の海岸の風景も
背景に思い出されてきたりして
ナズナがずいぶん背丈を伸ばしている細い道の
アスファルトをずずずっと
時どきスニーカーの後ろや前で擦りながら
まるで別の国の
別の道を
どこに行こうとしていたのか
進んでいるような気持ちになって
ひろき君にチョコレートを買うことも
うっかり忘れそうになって
おっと
ぼくは今日どうしてこっちの道に来たんだっけ?
という思いに助けられて
そうだ
ひろき君にチョコレートを買おうと思って
舟木製菓のほうに行こうとしているんだった
と思い直したものの
ちょうど見えてきた六地蔵さんのせいで
その思いが
また
どこかにちょっと逸れてしまって
そうだった
ぼくはあのお地蔵さんたちのように
この世に留まってひとびとを助けなければいけない
などという思いが
どこからか浮き上がってきて
妙に心が高ぶって
落ち着こう
落ち着こうとして
足もとにあったナズナを一本むしって
葉のぜんぶを
つー
つー
つー
と
取れてしまわないように
ちょっとずつ離して
茎をまわして
じゃらじゃら
じゃらじゃらじゃら
と振って音をさせながら
しばらく立ち止って
いた
ところを
美濃部サイクルで直してもらった自転車に乗った松岡巡査が
かなり遠くの望月さんの納屋のあたりから見つけたが
ナズナをくるくる
まわして音を聴いているとまでは見えなかったので
耳か
頭でも
掻いているのではないかと思い
自分もなんとなく頭に左手の人差指を持っていって
耳の上あたりを掻いたが
掻いてみて
自分は別に痒くもなんともないのに気づき
そういえば家のシャンプーが
そろそろなくなってきていたようだと思い出して
スーパーマーケットのマツダジャンボに
後で寄っていかないといけないかな
と考えたのは
ちょうど昨日から
妻の初恵も娘の理沙もインフルエンザに罹って寝ていて
自分が
夕食を作らなければいけないからだったし
寝ている家族の分もなにか拵えなければいけなかったからだが
弘和くんを遠望しながら
あの子はインフルエンザに罹ってないんだなぁ
あんなところで立っていたりして大丈夫かなぁ
でもあそこなら他の人からうつされる心配はないなぁ
などと思い
ペダルを強く踏み始めたら
自転車のどこかが太陽の光をきつく反射し
弘和くんの目にちょうど当たって
あっ
と思った弘和くんは
はじめて松岡巡査のほうを見て
お巡りさんが自転車で行くところなのを知り
あっ
自転車
美濃部サイクル
ひろき君
誕生日
チョコレート
舟木製菓
と
連想が進んで
いつもと違う道へ逸れたわけを
思い出し
当初の目的を忘れないで
済んだ
ということで
あった
と
どっとはらい
どっとはりゃあ
とっぴんぱらりのぷう
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