アールグレイばかり偏愛してきたのも終わり。
ダージリンが数十年ぶりに復活し
アッサムも好んで買うようになった
台所の戸棚の奥にしまっておいた
透明耐熱ガラスの
一杯ずつ作るためのティーカップを
これも数年ぶりに見つけて
(誰かの婚礼記念で貰ったものだが、誰だったか…)
ティースプーンでニ杯とほんの少しだけ多めに
アッサムを筒状の網に入れて
熱湯を注ぐ
三分から三分半ほどで茶葉の網を引き上げるのが旨いようだ
六分ほど湯に浸してしまったことがあったが
茶に粉状の色が出過ぎて
飲んでいる間にさらに酸化して濁っていってしまった
古い旧友がLINEでの紅茶話のついで
わたしはアールグレイしか飲まないので…
とグルメ上層階級めいたことを書いてきたのを見て
ま、せいぜいそんなレベルに
留まっているがいいさと
いつのまにか見下した感想を持ったりし始める
飲食における階級意識というのも恐ろしいもので
どこまでも差別意識の根は根絶しづらいものらしい
レミニッセンスでディナーをする連中が目にもかけない
座布団に穴の開いたお好み屋やモツ煮居酒屋で
ホッピーだの発泡酒だの泡盛だのを鯨飲するやからが
フレンチを小馬鹿にして気炎を上げていたりするのはよくあること
アールグレイにしたって
まさかそこらのスーパーで買ったものを飲んでいるのではあるまい な
などとさらに見下しを続けようとする我が思念に
ストップ!と命じ
ちょうど旨く淹れることができたアッサムを
コニャックのようにちびちびと飲んでいる
自分で注意深く淹れようとしても
ほんの数秒で紅茶の味と澄みぐあいはすっかり変わってしまう
澄んだ美しい赤みを追及しようとすれば
味の深みを引き出し損なうこともある
一杯一杯がけっこう真剣勝負
そんなことを思いながら
コニャックのようにちびちびと飲み続け
紅茶の旨い店という自画自賛のティールームで
味の引き出しに失敗した一杯を飲んで
しかたなしに旨いかのような顔をして過ごしたことや
パリの高級ホテルで美女の給仕から淹れてもらった茶が
なんとティーバッグ使用だったのに驚き
目のあたりにした高級というものの嘘っぱちさ加減に
どこか晴れ晴れとした気持ちになったことなど
思い出すともなく
思い出していたりする
ジェイソン・ステイサムの刑事アクション物か
筋の通った悪人物でも
この夕べ
見直そうかな……
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