2013年1月19日土曜日

やけに気分のおだやかな日で


*表現上、非紳士的な個所もありますが、作者の思想的・感性的背景と、内容の危急性・切迫性、言語表現上の絶対自由を義務とする詩的形式の極北性にかんがみ、原文のままとしています。



電車の座席に
まことしやかに
あからさまに
けちな区切りの
もりあがった線がついたのは
いつからだっただろう

ちょっと逸れて坐ろうものなら
おしりの肉がゆがむ
ひとり分のおしり乗せ部分に
おのずと
おしりをズラさせ
正させる
しくみ

じつは
ソフトな社会的支配手法の
最たるもの
命令や罰則なしに従わせる
二〇世紀的手法のひとつ

たっぷりスペースをとってあれば
まあ悪くもないんだが
どうして日本の電車の座席は
あんなに窮屈に
ひとり分を確定してあるんだか

正直いって
あれ
狭いです
悪意を感じるね
悪意でなければ製作者の頭脳の弱さをね
ああいうのをノサバラセテいるから
この国はいつまでもダメなんだよ
ダメには理由があって
ダメの源にはかならず誰かがいる
ちゃんと名前のついた誰か
なんとなくダメになっているんじゃないんだよ
作った奴が悪く
その企画を通した奴が悪いんだよ
ある人が悪いんだ
世の中が悪いんじゃないんだよ

きのう
ぼくは小田急線に乗って新宿に帰ってきたが
冬だから
みんなモコモコ着こんで
坐るともっと席は狭い
座席はつめあわせておかけ下さい
なんてアナウンスしてるが
座席は余裕をもってこしらえて下さい
と逆アナウンスしてやりたいね

ひとつだけ空いていた席に座ると
となりのオジサンが
モコモコ
分厚い革ジャン着てるもんだから
狭い
狭い
体を微動だにせず
ちょっとつめてやろうかなんて気は
微塵もないわけだ
ぼくはしかし
なんでだか
やけに気分のおだやかな日で
いやあ、冬は狭くなりますねえ
まいっちゃいますねえ
とオジサンに言ったのだった
するとオジサン
ちょっと驚いたようだったが
そうですねえ
冬は狭くなりますねえ
いっぱい着てるからねえ
膨れてるから…
と言って
おなじ文句をしばらく繰りかえしていた

そうは言いながらも
オジサン
まったく詰めもせず
こちらの席の上に体がずいぶんはみ出ているのに
ぜんぜん引っ込めようともせず
禿げた頭をぽーっとさせたままで
既得権益を守っていたのだった
ぼくはしかし
なんでだか
やけに気分のおだやかな日で
胸を折るようにして
身を細めて
狭いビルの間に入るようなぐあいに
しばらく浅く座っていた

こんな経験をたくさんの客にさせる
電車のデザイナーだか
設計者だかは
さぞご満悦だろうよ
体の大きくなった日本人に
よくまあこんな経験をさせて
ほんと
ダメなやつはどこまでダメなんだか
と思う
この10年ほどで導入された
東京の電車の設計者よ
お前に言ってるんだぜ、このバカ野郎
クソ設計を通した
電車製造者ども
お前らに言ってるんだぜ
このノータリンの想像力欠如野郎ども

その日はさいごに
東京メトロの南北線に乗り替えたら
またひとつ
空いていた席があったので座ると
となりの太った大男が
図体にあわない小さなスマホを
チコチコやっていやがって
左腕がこっちの席に
20センチも堂々と出たままになってんだけどォ…
ぜんぜん大根腕を引く気もネエし
ザケンジャネエヨと思ったけど
ぼくはしかし
なんでだか
やけに気分のおだやかな日で
めずらしく
そのままにしておいた

星の配置がよかったんだか
聖なる気が流れ込んだんだか

だけど許さねえゾ
この10年ほどで導入された
東京の電車の設計者よ
クソ設計を通した
電車製造者ども
ノータリンの想像力欠如野郎ども





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