きれいな諦念を浮かばせながら

さらに酷い時代の入口に立って

詩編のようなものを書く手は

少し休めておくのがよい

予知の力のある人たちも目を

少し休めておくのがよい

もうなにがどう起ころうとも

いちいち書き記そうなどと

しないでやり過ごしたほうがよい

あまりに数が多過ぎて

自己を失っていってしまうから

たゞ見聞きし経験し

擦り傷を受ける程度で避けるすべを

よくよく学んでおいたほうがよい

さらに酷い時代の入口に立って

やっておけることなどあまりない

好きなことがあれば今のうちに

少しでも多くやっておき

所有物を少しでも減らすように

努めておくのがなによりよい

季節ごとの自然の美しさや

まだ皆無でもない人心の良い面を

今のうちに味わっておくのがよい

さらに酷い時代の入口に立って

もしおいしい紅茶が好きなら

やすらいだ心で今のうちに

数杯飲んでおくのがよい

今生では二度と飲めないかもしれないと

きれいな諦念を浮かばせながら